最終回 これからもよろしくな大口兄弟の伝説(2/2 ページ)

» 2009年01月07日 08時30分 公開
[森川滋之,ITmedia]
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 約2カ月後。10月の初めに和人はまたも本部に呼ばれた。田島が満面の笑顔で迎えた。今回は目も笑っている。こんな人なつこい顔もできるんだ。和人は少々驚いた。「吉田さん、やってくれると思っていましたよ」。手のひらを返すとはこのことだ。

「ハッパをかけた甲斐がありました。3カ月連続全国一位おめでとうございます」。7月に全国1位になったあと、大口兄弟の仕込んでいた会社の契約が次々と取れて、C市営業所はダントツの1位を続けたのだった。半年単位で選ばれる全国トップ営業は、もちろんタカシだった。

 半年の約束だったが、どうしてもという本部からの引止めでもう三カ月所長を務めることになった。それで直々に挨拶したいと田島から呼び出されたのだった。挨拶したいのなら自分から出向けばいいのだが、そういう発想は田島にはないようだ。

 「吉田さんの管理・監督のおかげです。かなり厳しくしごいたんでしょう?」。田島に何を言っても分かるまい。このあとのセリフも理解不能だろう。

 「私は何もしていません。部下の自主性に任せて、ただ信じただけなんです」

 「またまた、ご謙遜を。今度ぜひ本部で部下を働かせるコツについて講演をお願いしますよ。全マネージャーを集めます」

 「すみません。口下手なんで。それだけは遠慮させてください」

 7月の終わりには、この男を見返すことでモチベーションを維持していた。しかし、見返せる立場になったら、なんだか田島がかわいそうに思えてきた。今まで部下と魂が通じ合ったことなどないのだろう。

 部下に仕事をさせるにはアメとムチの使い分けしかない。考えるのは自分たちだけで、欲しいのは優秀な手足。そう考えないとやっていられないようなプレッシャーの中で田島は日々を過ごしている。自分にその孤独が耐えられるだろうか。

 たぶん15分ぐらい、田島は和人を賞賛していたのだろう。その間、和人はずっとうわの空で、正確な時間を覚えていない。早く営業所に帰って、あいつらと仕事がしたい。和人が考えていたのは、そのことだけだった。

 12月末。和人の任期が終わると同時にマイラインのキャンペーンも終了し、全国の臨時の営業所はすべて正式に解散となった。そのときに全員からとアネゴが渡してくれたのが、今も和人の部屋の一番いいところに飾ってある2匹の豚の置物だった。所狭しと寄せ書きがされた2匹の豚を、和人は元気ややる気がなくなるたびに取り出して見ている。


 その後もみんなからも時々連絡が来る。

 アネゴからは勤務先が変わるたびに葉書が来る。相変わらず派遣を続けている。でも、その立場が心の底から気に入ってるのだそうだ。

 オタクとチェッカーが結婚したという知らせが届いた。あいつらいつの間に。さてはオタクの入院がきっかけか。

 マザーの息子はJリーグは無理だったようだが、サッカーの強い大学に推薦で入れた。マザーはあれから保険の外交をやってトップクラスの成績を上げているらしい。

 クオーターは通訳の仕事についた。大会社から依頼が来てもひざが震えないようになったのだそうだ。

 イケメンは本部のコールセンターで仕事を見つけたらしい。人前に出る仕事のほうが絶対に成功すると思うが、それも人生だろう。

 ジンジは、人事部に配属された。適材適所だと和人はジンジのために喜んだ。C市営業所のような職場作りをしたいと手紙には書いてあった。

 タカシは、全国トップ営業の報酬と歩合を資本金にして会社を設立した。部下に慕われているらしい。リベンジできたようだ。

 ショージは、中堅の商社に就職できたらしい。髪の毛をきちんと分けた写真が届いたので、最初は誰だか分からなかった。

 ロバさんだけが消息が分からない。でも、チベットにいるのは間違いない。行ってみようか。ロバさんに会いにチベットに。遠いチベットの街角で和人に気付いてびっくりするロバさんの表情を思い浮かべると、和人は愉快でたまらない気分になるのだった。

「成約率を10倍にする名刺交換セミナー」のお知らせ

 本連載の主人公・吉田和人のモデルである吉見範一氏を講師に迎えてセミナーを開催します。吉見氏は名刺交換が終わった段階で成約できるかどうかは99%分かるとのこと。また、この名刺交換のメソッドを編み出してからは、以前と比較して成約率が10倍に高まったといいます。

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  • 時間:18:30〜
  • 場所:江東区産業会館

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著者紹介 森川“突破口”滋之(もりかわ“とっぱこう”しげゆき)

 大学では日本中世史を専攻するが、これからはITの時代だと思い1987年大手システムインテグレーターに就職する。16年間で20以上のプロジェクトのリーダー及びマネージャーを歴任。営業企画部門を経て転職し、プロジェクトマネジメントツールのコンサル営業を経験。2005年にコンサルタントとして独立。2008年に株式会社ITブレークスルーを設立し、IT関係者を元気にするためのセミナーの自主開催など、IT人材の育成に取り組んでいる。

 2008年3月に技術評論社から『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、7月には翔泳社から『ITの専門知識を素人に教える技』(共著)を上梓。冬には技術評論社から3冊目の書籍を発売する予定。


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