東日本大震災の大津波により起きた福島第一原発の事故で、日本で放射能汚染が現実的なものとなってしまった。放射線という目に見えない恐怖にどう立ち向かっていけばいいのか。まず放射線の知識のほか、放射線を検知する測定器について学んでいこう。
本連載は6月9日に発売した「ガイガーカウンターGuideBook」を基にした連載です。
本書の目的は、福島第一原発事故を受け、ガイガーカウンターの仕組みの理解と製品選びの知識を高めることだ。このため本書を読んだあと、実際に製品を購入し、放射性鉱物などを使った動作確認を考える人もでてくるだろう。
しかし本書ではこれをすすめない。なにも知らない家族が触って被ばくするかもしれないし、子供やペットが誤って放射性物質を飲み込んでしまう可能性だってある。本書を読めば放射性物質の知識は少なからずつくだろうし、それ以上のテストは不要であろう。動作確認なら環境測定だけで十分なはずだ。
放射線の影響は、大人より子供のほうが受けやすい。そして放射線の影響は、いつでるのか分からない。数年後、自分の子供の被ばくが判明し、後悔しても遅いのだ。もちろん、以前から鉱物採集やウランガラスのコレクションを趣味としている人に、いまさら入手するなとはいえない。こういう人は取り扱いや管理に関しては十分な知識をもっているだろうから、そこはもう自己責任の世界である。とにかく放射線は目に見えない危険な存在なのだ。興味半分で手をだすことだけは、絶対にやめてほしい。
東日本大震災による福島第一原子力発電所の被災で、放射線の影響に注目が集まっている。原子爆弾による唯一の被ばく国である日本に住むわれわれは“放射能が恐い”と、思い込んでしまっているが、人体をむしばむのは、あくまでも「放射性物質」から放たれた「放射線」である。
例えば、飛行機で移動中は、地上よりも高い放射線を浴び続けている。その値は、例えば胸のレントゲンが1回あたり約0.05mSv(ミリシーベルト)なのに対し約0.19mSv(東京−ニューヨーク往復)となる。ただ、これでも心配する必要はまだない。日本では1人あたり年間1.5mSvの自然放射線を浴びており、イランやブラジルでは1人あたり年間10mSv以上浴びる地域があったりするのだ。こうした自然の放射線に対して、レントゲンやCTスキャンで浴びる人工の放射線もある。胸や胃のレントゲンはともかく、CTスキャンは約6.9mSvと、放射線量がかなり高い。それでも最近のCTスキャンは性能がどんどんよくなっており、効果は同じでもより放射線量が少なくなっているようだから、検査を受けるとしても恐れる心配はない。
一方、200mSvの放射線を浴びると、全身被ばくと認定される。さらにその5倍以上の放射線を浴びると血液中のリンパ球が減少し、細胞が死滅し、下痢や出血などの症状がではじめ、しまいには立っていられなくなる。その先は意識障害、そして死に至る。
こうした放射線を簡単に測定できるのが「放射線測定器」や「線量計」と呼ばれる測定器だ。これらは「ガイガーカウンター」と呼ばれることもあるが、厳密にはガイガー・ミューラー管を搭載した測定器のみをガイガーカウンターと呼ぶのが正しい。製品によってはガイガー・ミューラー管ではなく、半導体を使ったものもあり、これらをガイガーカウンターと呼ぶのは間違いである。ただ、本連載で紹介する製品はガイガー・ミューラー管を搭載したものがほとんどなので、本書ではガイガーカウンターで統一することにする。
ガイガー・ミューラー管は、ドイツのハンス・ガイガーとヴァルター・ミュラーが1928年に開発した計数管であり、完成からすでに80年以上もの年月が経過している。しかし現在でも使われ続けていることから、原理的に完璧なものであることはうかがいしれる。ガイガー・ミューラー管を搭載したガイガーカウンターは原子力開発の歴史には欠かせないものであり、1942年にアメリカのシカゴ大学でノーベル物理学者エンリコ・フェルミが史上初めて原子核分裂の連鎖反応制御に成功したときも現場で使われている。
測定する原理はこうだ。不活性ガスで満たされた管の中心にあるのが電極で、高い電圧がかけられている。この状態の管の中に放射線が飛び込むと、パルス電流が流れるので、それを測定する。
原理的にはサイズの大きいほうが平均的に放射線をつかまえることができ、測定値が安定しやすい。事実、サイズの大きなガイガー・ミューラー管を搭載したロシア製やウクライナ製の製品(新品で入手できたもの)は、今回の測定試験においては安定した結果をだしていた。これに対しサイズの小さなガイガー・ミューラー管を採用した中国製の製品群は、数値がなかなか安定しないものが多かった。
ただ、大きさが検出性能のすべてを決めるかというと、そうともいいきれない。なにしろなかには第二次世界大戦の遺物ともいえる古いガイガー・ミューラー管を搭載した製品もある。とはいえ、搭載しているガイガー・ミューラー管の型番や仕様を公開しているメーカーは少なく、性能を比較するには実際に製品をテストしてみるしかない。
ただし、同じガイガー・ミューラー管を搭載していても、ガイガーカウンターの設計思想が異なれば、比較するのが難しくなる。例えばボランティア活動で東日本大震災の被災地に行く場合、一時的な放射線量よりも、滞在した期間中に受けた累積放射線量のほうが気になるだろう。本連載で取り上げる中国製の製品群は、累積放射線量の表示を重視した設計となっているものが多く、測定値が安定しないからといって性能が低いとは、いちがいにはいえないところがある。
放射線にもいくつか種類があるのをご存じだろうか。本連載ではガイガーカウンターが測定できるα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線を扱う。
まずα線だが、大きくて重く、かつ速さが遅い粒子なので、厚さ0.02ミリくらいの紙やアルミ箔で防ぐことができる(放射線の強さが500万電子ボルトの場合)。防ぐといっても目で見えないものなので、空間に漂ってしまえばちょっと防ぎようがないが、放射性物質を紙やアルミ箔でくるんでしまえば放出を抑えることはできる(中で蓄積はするだろうが)。福島第一原発事故ではα線はほとんど検出されておらず、この点では安心である。
β線も粒子だが、α線より軽く、速い。このため厚さ1センチくらいのアルミ板や3ミリくらいの銅版、鉛版でないと防ぐことはできない。ちなみにこの解説部は、ガイガーカウンターの構造を理解するうえで重要な部分である。というのは、ガイガーカウンターで放射線を検出する役目を担っている「ガイガー・ミューラー管」は、α線、β線、γ線を分けて検出することができないのだ。このため製品によっては、物理的に前述した金属で囲んだりして、検出時にそれを開放することで測定できるようにしているものがある。
最後にγ線だが、α線やβ線が粒子であるのに対し、その正体は電磁波、すなわち光子である。厚さ10センチくらいのアルミ板や2センチくらいの鉛版で半分くらいは防ぐことができるものの、残りは透過してしまう。透過能力が高いという意味では実に危険で、福島第一原発事故で放出されているのも大半がこのγ線である。
ガイガーカウンターの製品ごとの使い方に関しては次回以降くわしく解説するが、基本的には電源を入れると即、測定が始まり、測定値が安定するのを待てばよい。前述したとおり自然環境にも放射線は常に存在するので、よほどおおざっぱな仕様の製品でないかぎり、数値が0μSv/h(1時間あたりの放射線量)になることはない。屋外では0.05〜0.16μSv/hあたりになるだろう。
さて、福島第一原発からの放射線放出が止まらない現状では、被災地周辺の学校や観光地、会社、そして自宅でガイガーカウンターを導入するところが増えてくるはずだ。この場合、注意しなければならないのが設置場所である。β線は厚さ1センチくらいのアルミ板や3ミリくらいの銅版、鉛版で防ぐことができ、γ線は厚さ10センチくらいのアルミ板や2センチくらいの鉛版で半分くらいは防ぐことができる。コンクリートでも当然遮断される。福島第一原発事故直後に周辺の住民に屋内待機が命じられたのは、これが理由だ。幾重にも遮断されれば、放射線が弱まるのである。
さて地上3階、地下1階建ての自社ビルに入った会社が、ガイガーカウンターを1台導入するとしよう。この場合、地下の奥の部屋などに置いていたのでは危険を察知するのが遅れてしまう。ベストは地上階の窓際であろう。防水仕様になっていれば屋外に設置するのがベストだが、今回取り上げた製品で防水仕様になっているものはなく、逆に屋外に設置したばかりに警告音を聞き逃す可能性も否定できない。設置場所には十分配慮し、1分1秒でも早く放射線の危機から逃れられるようにしておこう。
放射線による被ばくには「外部被ばく」と「内部被ばく」があり、ここまでは大気中に放出された放射線による外部被ばくを前提に解説してきた。それに対して、例えば放射性物質を体内に取り込んでしまうと内部被ばくになる。
外部被ばくに対する警戒にはガイガーカウンターが有効だが、いったん内部被ばくしてしまうと、ガイガーカウンターでは測定できない。「ホールボディカウンター」と呼ばれる測定装置を使う必要がある。特に福島第一原発で働いている作業員は、相当な量の放射線を浴びながら作業をし続けているわけだから、ホールボディカウンターでの内部被ばく検査は必須であろう。
なお、被ばくしたかどうかについてはスクリーニング検査で調べることができ、万が一被ばくしていたら、ふき取りや全身洗浄で放射線を取り除く必要がある。
今回は放射線やガイガーカウンターの概略を説明した。次回以降は各ガイガーカウンターを見て行く。
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