「TERRA-P MKS-05」は、チェルノブイリ原子力発電所が残るウクライナのECOTEST製で、β線とγ線が検出できる。操作ボタンが2つと非常にシンプルなガイガーカウンターだ。ロシア製、ウクライナ製の製品は総じてつくりがよいが、なかでもTERRA-Pの完成度は特に高い。
日本ではこれまで、ガイガーカウンターの存在を知っている人はほとんどいなかった。「ガイガーカウンター」「放射線測定器」「線量計」の文字がタイトルについた本が1冊も存在しなかった事実が、それを物語っている。医療関係者や科学者、鉱物採集を趣味とする人以外には、必要がなかったのだ。
それが福島第一原発の放射能漏れ事故で一気にクローズアップされ、国内にあったほんのわずかな在庫に多くの人が殺到した。その結果、信じられないほどの高値で取り引きされるようになったのである。5月末になってようやく落ち着いてきたとはいえ、まだかなり高い。商品の性格を考えるとやむなしと思わないでもないが、大震災で景気が悪化の一途をたどる現在、まともに使えない製品を高値で入手し損をするのだけは避けたいはず。
そこでこの連載では、ゴールデンウィーク前に入手できた製品で性能や使い勝手などを比較してみた。ただ、本来こうした比較は、新品で行うべきもの。しかしほとんどの製品をネットオークションで購入した結果、なかには中古や倉庫で眠っていたデッドストック、被災地で使われた可能性のある製品もある。このため本来の性能を発揮できなかった製品もあるかもしれない。あらかじめお断りしておく。
ポイントとしては、(1)測定値が安定しているか、(2)使い勝手は良好か、(3)線量当量率(μSv/h:1時間に放射線によって現れる影響の度合い)と累積線量当量(μSvまたはmSv)のどちらも測れるか、の3つ。学術目的より、ボランティア活動や被災地に住む人々、風評被害で苦しんでいる観光地の人々の使用など、福島第一原発事故を前提に各製品を検証していきたい。
今回はほとんどの製品で日本語マニュアルが付属していなかったため、製品の呼び名やボタンの名称などで実際の製品と異なる可能性がある。また仕様に関しても、付属マニュアルの仕様に疑問を感じたものは、テストした結果から導きだしたものを記載した。さらにサイズや重さに関しても、電子ノギスやはかりで測った実測値を書いている。このため本書でのみ通用する個所が多々あることを、あらかじめお断りしておく。
「TERRA-P MKS-05」は、チェルノブイリ原子力発電所が残るウクライナのECOTEST製で、β線とγ線が検出できる。操作ボタンが2つと非常にシンプルで、測定できる線量当量率の最大値が999.9μSv/hと高い。なおβ線を測定するには、本体裏のガイガー・ミューラー管カバーを外して行う。スリープモードを搭載しているのも魅力だ。
ロシア製、ウクライナ製の製品は総じてつくりがよいが、なかでもTERRA-Pの完成度は特に高い。ECOTESTはガイガーカウンター製造の歴史も長く、一日の長は確かにある。
線量当量率の測定方法 | |
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(1) | MODEボタンを長押しし、電源を入れる |
(2) | 電源が入ると測定を即開始するので、液晶が点滅しなくなるまで待つ |
(3) | 数回計測し、平均的な値となると液晶の点滅が止まる |
(4) | 測定が完了したらMODEボタンを長押しし、電源を切る |
右側面のMODEボタンを長押しすれば電源が入り、線量当量率の測定が始まる。線量当量率から累積線量当量への切り替えも、MODEボタンを一度押すだけ。ユニークなのは、ほおっておくと自動的に液晶表示が消え、スリープモードに入ること。その間も測定は行われ続け、線量当量率が設定値を超えると警告音で知らせてくれる。
ただ、設定値がデフォルトでは0.3μSv/hとあまりに低く、放射性物質を近づけるとすぐに警告音が鳴ってしまうのだ。設定値は変えられるのだが、いったん電源を切ると、もとに戻ってしまう。これは、設定値を高くしたままだと放射線量が高い地域に入ったとき危険に気づくのが遅れる、という理由からだろう。原爆事故が起こった国ならではの配慮のような気がする。
本体裏のカバーを外すと、ガイガー・ミューラー管の一部が露出し、β+γ線が測定できる。閉じた状態ではカバー裏の金属でβ線が遮断されγ線のみ。福島第一原発で問題となっているのはおもにγ線なので、ふだんは閉じた状態で使ってかまわない。ちなみに閉じた状態と開けた状態の測定値の差が、β線の汚染値となる。
本体中央にモード切り替え操作のナビゲーションがあり、基本的にはそれに従えばよく、設定値の変更方法さえ覚えてしまえば、マニュアルは不要。表示もシンプルと、ガイガーカウンターが初めてという人でも使いやすい。線量当量率の測定も早く、数値も安定していて優秀な製品といえる。
TERRA-P MKS-05 | |
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測定モード | 線量当量率、累積線量当量 |
測定範囲 | 線量当量率(0.01μSv/h〜999.9mSv/h) 累積線量当量(0.001〜9.999mSv) |
サイズ | 120×55×26ミリ(幅×奥行き×高さ) |
重さ | 約105g |
電源 | 単三形乾電池×2本 |
本連載は6月9日に発売した「ガイガーカウンターGuideBook」を基にした連載です。
本書の目的は、福島第一原発事故を受け、ガイガーカウンターの仕組みの理解と製品選びの知識を高めることだ。このため本書を読んだあと、実際に製品を購入し、放射性鉱物などを使った動作確認を考える人もでてくるだろう。
しかし本書ではこれをすすめない。なにも知らない家族が触って被ばくするかもしれないし、子供やペットが誤って放射性物質を飲み込んでしまう可能性だってある。本書を読めば放射性物質の知識は少なからずつくだろうし、それ以上のテストは不要であろう。動作確認なら環境測定だけで十分なはずだ。
放射線の影響は、大人より子供のほうが受けやすい。そして放射線の影響は、いつでるのか分からない。数年後、自分の子供の被ばくが判明し、後悔しても遅いのだ。もちろん、以前から鉱物採集やウランガラスのコレクションを趣味としている人に、いまさら入手するなとはいえない。こういう人は取り扱いや管理に関しては十分な知識をもっているだろうから、そこはもう自己責任の世界である。とにかく放射線は目に見えない危険な存在なのだ。興味半分で手をだすことだけは、絶対にやめてほしい。
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