震災を機に働き方や事業の見直しを図った企業は多い。社内設置型のメールセキュリティ製品を提供するHDEは、自社と顧客の実体験からクラウドを活用したソリューション提供に踏み切った。
東日本大震災が働き方にどのような変化をもたらしたのか。これまで数回に渡り、複数の会社や組織にインタビューをしてきた。前回はシトリックスの在宅勤務と人事制度についてまとめたが(記事:震災後、シトリックスの在宅勤務を支えた2つの制度)、今回はメールセキュリティ製品を中心に展開するHDEの宮本和明副社長に、自社のみならず主力製品の扱いにも及んだ震災後の変化を聞いた。
震災前、HDEが注力していたのはアプライアンスと呼ぶ機能特化型のハードウェア製品や、社内メールシステムと組み合わせて使うパッケージ製品だった。
宮本氏は震災前を振り返り、「当社もGoogle Appsを導入し、クラウド環境への対応を検討はしていました。ただ、あくまでそれは将来に向けての備えという位置付けだったんです。まずはメールのバックアップという位の扱いで、全社員には公開していませんでした」と話す。HDEの顧客も、機密性の高いメールサーバとセキュリティを高めるアプライアンスは、社内に置いて管理したいというニーズが高かったという。
ところが震災を経て、その状況は一変した。HDEでも震災後の交通機関の混乱のため社員が出社できなくなり、社内のメールサーバにもアクセスできなくなってしまったのだ。急きょGmailを全社員に開放し、連絡手段として運用を開始した。もともと技術者が多いHDEのスタッフは、それまで使ってきたメールシステムとは趣が異なるGmailを戸惑いと好奇心を持ちながら、いろいろと試行錯誤を繰り返して使用していたという。
「そうして緊急避難的にGmailを使い、その後の通常業務でもそれを継続していく中でGoogle SitesやGoogle Documentsが意外と使えることが分かりました。そして、両サービスを組み合わせて使っていこうという動きが出てきたんです」と宮本氏。
例えば週1回実施する経営会議では、これまでプロジェクターにPCの資料画面を映し出し、出席者はその画面を見ながら話をするという一般的なスタイルを取っていた。しかしGoogle Appsを導入以降は、まずGoogle Sitesに出席者が事前にアジェンダ(議題)を公開しておき、また関連する表はGoogle Spreadsheetで用意・共有。会議中もプロジェクターではなく、自分のPCで共有したそれらの資料を見ながら話をする形に変化した。
会議をしながら書記役がその内容を記録することはそれまでも行っていた。加えてGoogle Appsを用いることで、各人が自分自身で共有したドキュメントに記入できるようになり、作業効率が向上。ニュアンスもより伝わりやすくなったと宮本氏は言う。「そのためにノートPCを全社的に導入したのですが、社内でも持ち運んで使うスタッフも増え、慌てて無線のアクセスポイントを増設しなければなりませんでしたが(笑)」
HDEは在宅勤務制度は取っていないが、社内でのモビリティが高まったことに加え、外回りの営業が多い場面の中でリモートワークによる生産効率アップ、業務改善が進んだと宮本氏は話す。メールであれば従来のシステムでも(それが動いていればという前提だが)社外からのアクセスは可能であったが、特にドキュメントの参照で効果が顕著だという。まだレイアウトなど「見栄え」ではMicrosoft Officeに見劣りをすることもあるが、社内用途に限れば、同時編集やリモート作業でのメリットの方がそれを上回るというわけだ。
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