震災後、シトリックスの在宅勤務を支えた2つの制度脱ガンジガラメの働き方(1/3 ページ)

地震や台風などの災害リスクと、少子高齢化が強いるワークライフバランスの変化。日本企業に立ちはだかる課題は数多い。3.11翌日から在宅勤務導入という早期決断に踏み切ったシトリックスに同社の取り組みを聞く。

» 2011年10月06日 12時10分 公開
[まつもとあつしBusiness Media 誠]

 これまで、東日本大震災後の働き方の変化やそこに対する各企業の取り組みを紹介してきた。今回は、在宅勤務(テレワーク)についてシトリックス・システムズ・ジャパン(以下:シトリックス) 人事部の金 順子(キム・スンジャ)部長とマーケティング本部 マーケティングコミュニケ−ションズマネージャーの冨永千鶴氏に話を聞いた。

 米国に本社を置き、NASDAQに上場するシトリックス。同社は、リモートアクセスや仮想化技術に強みを持つ企業だ。本稿ではシトリックスへのインタビューを通じて、在宅勤務時に必要となる機材や環境をどう整えるか? 社員のモチベーション維持をどう図るか? 公正な評価をどのように行うかなど、在宅勤務導入にまつわる数々の疑問解決に役立つ情報を紹介したい。

2つの制度で成り立つ在宅勤務

人事部の金部長

 東日本大震災後に起きた交通機関の混乱を受け、在宅勤務への関心は急速に高まった。シトリックスは、震災以前から積極的に在宅勤務を導入していたこともあり、3月11日以降もほぼ普段と変わりなく業務を継続できたという。人事部の金氏は「もともと北米の企業文化が強く、働く場所や時間はパフォーマンスさえ出していれば拘りはない」と話す。在宅勤務への切り替えが混乱なくできたのも、同社が社外から社内にアクセスする環境を支える製品群を抱えていることもある。しかし、実際には支社がある各国の文化とバランスを取ることも必要だと金氏は付け加える。

 日本のシトリックスの在宅勤務を支えるのは「Web Commuting制度」と「リモートワーク」だ。

 Web Commuting制度は、いわゆる在宅勤務制度。6カ月以上在籍している社員は上長と相談の上、在宅勤務の実施曜日を設定できる。その曜日の全勤務時間あるいは部分的に、自宅またはその他の場所で業務ができるというものだ。「Web Commuting=通勤をWebで行う」というネーミングがそのコンセプトをよく表している。冨永氏もこの制度を利用して、育児とマーケティング業務を両立している。一般的に直行直帰が多い営業職に限られることも多い在宅勤務だが、シトリックスでは職種を限定していない。

マーケティング本部の冨永氏

 一方「リモートワークの実施」は、上記の制度にかかわりなく全社員に外出先や自宅などからのリモートワークを薦めるというもの。事前の申請は必要なく、突発的な出来事に対しても適応する。

 「このどちらか一方だけでは、うまくいかなかったはずです」と金氏。特に、リモートワークはいわゆる労務管理の範囲ではなく「あえてそこから出してしまった」と金氏は続ける。事前申請が必要ないため「子どもが風邪をひいた」など突然の出来事にも柔軟に対応できる。結果としてストレスの軽減、ワークライフバランスの向上にも役立つというわけだ。もちろん、震災時にも柔軟にこの制度は機能したという。

 逆に労務管理の枠内で行うWeb Commuting制度は、例えば労災などのリスクも考えて、制度を利用する社員に対して家の中で業務に専念ができる環境を細かく規定している。「物が落ちてこないようにしておくこと――つまり必要な安全確保は自らの責任で行う事を求めています」(金氏)

自社製品を実際に使用することで習熟も図れるというメリットもある(シトリックス資料より)

 「いつでも、どこからでもオフィスと変わらない仕事ができる」というシトリックスが20年にわたり取り組んできたテーマが、リモートアクセスや仮想化などの関連技術とインフラ環境が整ったことで、1つの完成形を見せたといえるだろう。加えて、そこにWeb Commuting制度とリモートワークの実施という硬軟な2つの制度を組み合わせることで、その活用度合いを上げるという狙いがあった。

 なお、在宅勤務制度を使った場合は7時間勤務と見なされ残業代は付かない。また入社間もない新入社員は、フレックス制度での勤務となる。各種決済は在宅勤務ツールで電子的にできるため、担当者の承認を待つために(シトリックス米本社はNASDAQに上場しているため、稟議申請フローは一般企業よりも厳しい規律が求められる)業務が止まることはない。

 「制度とカルチャーとITソリューションで、業務を止めない工夫をさまざまに施しているのがシトリックスの在宅勤務制度」と金氏は話す。

使える端末も自由に選べる

 シトリックスの取り組みでユニークなのが、業務に使う端末を社員が自由に選べる点だ。通常、管理コストやセキュリティの観点から、PCなどのIT機器は企業指定の機種を支給するのが半ば常識だ。同社は在宅勤務推進の観点からその制約をなくした。

 2009年に、私物端末を業務でも使用可能とするBYO(Bring Your Own)制度を開始。社員は会社が支給する一定費用で端末や保守サービスを購入でき、自身の資産として使用可能とした。iPhoneやiPadなどの優れたスマートデバイスの登場を受けて開始した制度だというが、思い切ったものだ。

シトリックスでは、BYOのコンセプトを伝える特設サイトを公開している。企業の管理体制などを皮肉まじりのユーモアな切り口で紹介する米国のコマ割り漫画『ディルバート』(Dilbert)のキャラクターが分かりやすく解説する

 「特に若い男性社員は、自分の気に入ったアプリをインストールするなど、端末を好きなようにカスタマイズするケースが多いようです。BYO制度は、プライベートの端末をそのまま業務でも使えるので、とても評判は良いですね」と冨永氏は笑う。実際問題として、古いOSやアプリを使い続けることは生産性の低下にもなりかねず、社員のストレスにもつながっていく。

 セキュリティ対策には、マカフィーのソリューションを採用。BYO制度で購入した端末には、同ソリューションの導入を義務付けている。加えて、業務そのものは自社製品で構築した仮想環境(XenDesktop)を活用する事で、在宅勤務時のツールやワークフローを統一している。

 Web Commuting制度やリモートワークを実施する際にも、使い慣れた端末であればより積極的な活用が期待できる。結果的に生産性の向上を図るという狙いがそこにはある。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ