放射線量に右往左往するケースが目立つが、実際にガイガーカウンターを測ってみたらどうだろうか。筆者が東京と福島で実地計測する。
東日本大震災から半年以上が経過した。東京など直接の被害を受けなかった地域での生活は落ち着きを取り戻し、例年通り年末年始の予定を考えている人も多いはずだ。だが、震災直後とはまた違った不安が存在感を持ちつつあるのも事実。秋の収穫期を迎え、福島県などから出荷される米・野菜などの食料品から放射性セシウムなどが検出されはじめていることが、不安の原因となっている。
「外部被ばく」「内部被ばく」という言葉も、よく知られるようになった。体の外からやってくる放射線によって被ばくする前者は、原発の状況が安定するにつれ、その不安は和らぎつつある(世田谷区のラジウムのような例外はあるが)。
一方、内部被ばくは、汚染された食料や飲料水の放射性物質が体内にとどまり続けることによって、長期間被ばくすることを意味する。こちらは外部被ばくと異なり、弱い線量でも体への影響が後々出る恐れがあるため、食料品の買い物の際、とにかく「福島県産」を避ける、といった行動となって現れてしまっている。
しかし、震災後「(被災地、被災者と)1つになろう」「がんばろう福島」などと言ったスローガンが唱えられたことと、根拠なく一律に福島産を避ける行動は矛盾してはいないか? 情報が錯綜するなか、見えない不安と私たちはどう向き合えば良いのか? そこに期待されるITの役割は大きい。東京そして福島を、線量計を持って歩きながら考えてみたい。
震災直後は、数十万円という法外な価格で販売されることもあった空間線量計だが、現在は比較的安価に入手しやすくなっている。今回、取材時に携えるのは、RDTX-PROというコンパクトな機種。単体でもアラームとして使えるが、iPhoneと接続して数値を計測、地図にマッシュアップしたり、FacebookやTwitterに即投稿できるのが大きなポイントだ。
よく「ガイガーカウンター」という言葉を耳にすることが多いと思う。これまで放射線量の測定には「ガイガー管(正式にはガイガー=ミュラー計数管※GM管とも)」という不活性ガスを充填した筒状の装置が用いられてきた。線量計の代名詞とも言える長い歴史を持つ仕組みだが、最大の弱点は「校正」と呼ばれる作業が必要なことだ。管の中を通る放射線量を電気的に図る仕組みであるため、いったん管自体が汚染されてしまうと、常に高い値を出すようになってしまう。構造上落下にも弱い。
今回使用した線量計は、こういったガイガー管を使用せず、シリコン半導体を用いた新しいタイプの物だ。写真のように軽く、コンパクトで校正も不要。精度も高いと言われる。RDTX-PROについては表示や計算をiPhoneに任せるため、市場想定価格も3万4800円とかなり抑えられている。筆者はAmazon.co.jpで注文し、1週間程度で入手することができた。
これまでガイガーカウンターで放射線を測るときには、付属するキャップを閉めること、正しく設定を行う事、などいろいろな決まり事があった。現地に持って行ってすぐ測定、という訳にはいかず、手順を守らないと――例えば、地面に直接測定器を置いて測ると、ガンマ線だけでなく、ベータ線まで拾ってしまい実情よりも大きな値を出す、など――正しい値を得ることができなかった。
実際、震災直後には、移動する車の中で線量を測ろうとしたり、地べたに置いたり、キャップを外して高い値が出たことをTwitterに投稿したり、とかなり混乱が生じたことを覚えている読者も多いだろう。
RDTX-PROについては、そういった作法をそれほど気にすることなく、即、測定に入ることができる。(ただし、一般的なガイガーカウンター同様、低線量の場合は変動が大きいことには要注意だ)
前述の通り、製品には線量を表示するなどの機能は備わっていないため、あらかじめApp Storeから専用のアプリをダウンロードしておく必要がある。
先ほどの写真のように、iPhoneとセンサーを付属の専用ケーブルで接続し、radTESTを起動する。あくまで一般用途の線量計であるため、起動の度に規約に同意する必要があるが、以降はすぐに測定に入ることができる。
マニュアルや画面は日本語化しており、とまどうことはほとんどなく使うことができるはずだ。
早速、先日話題となった世田谷区の某所を訪ね、試してみることにした。放射線は、放射性元素が壊変する際に発生するが、常に一定の値が出るわけではない。従って、ある程度正確な数値を得るには、同じ場所で時間を掛けて測定を行う必要がある。radTESTでは「タイマー」と呼ばれるメニューがそれに当たる。
ランダムに放出される放射線を測るには、ある程度時間をかけて統計的に「確からしい」値を出す必要があるが、radTESTではそのための作業をiPhone上で自動的に行ってくれるという訳だ。ガイガーカウンターと電卓やパソコンを携えて作業することを考えれば、とても手軽になっていることは間違いない。
こうして測定した値は、GoogleマップやFacebookに投稿し共有することができる。今回測定した値は、基準値を大きく下回っており、安心できるものだった。
すでに指摘されていることだが、世田谷区に比べると、千代田区秋葉原の方が若干線量が高く表示された。しかし、それでも基準値を大きく下回っており、空間線量については少なくとも都内では神経質になる必要はなくなっているということが納得できた。
冒頭でまとめたように、空間線量、そして外部被ばくという問題は、少なくとも現時点ではかなり小さくなっていることが分かった。その上でやはり気になるのは、食物・飲料水から生じると言われる内部被ばくのことだ。
別の記事で紹介しれているように、秋葉原を中心にPCショップを展開するサードウェーブが、現在、「シンチレーションスペクトロメータ」と呼ばれる器具を使っての測定体験会を行っている。
筆者もそこに参加して分かったのだが、食品や飲料水などを測定するには、周囲の放射線をまずしっかり遮断した上で、より精密に放射線量を量る必要がある。今回の取材で使ったような、空間線量を量る機器では、周囲の影響を受けてしまうし、そもそも内部被ばくで問題となるような空間線量に比べて小さい放射線量を知ることが難しくなってしまう。
専門家も指摘しているように、RDTX-PROのような機材は、放射能汚染の影響がより深刻な地域で、外部被ばくを避けるという一義的な目的で使われるというのが適切だ。しかし、食品の安全を確かめるには、比較的小型で安価とされる写真のような機材でも重さは50kg、価格は200万円を超える。個人でおいそれと買うわけにはいかないのも、また事実。内部被ばくへの対策は、どのように取っていけば良いのか、引き続き疑問は残ってしまう。
ということで次回は、実際に福島に足を運び、現地での取り組みなどを取材したい。
後編に続く
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
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