そのグラフは数字が持つ意味を表せていますか?説明書を書く悩み解決相談室(1/2 ページ)

プレゼン資料などを見ていると、表計算ソフトでさっと作ったような安易グラフを見掛けることがあります。そのグラフが示す意味は何か? 作成後にその意味を確かめる習慣を付けることで、その結果が持つ意味も理解できるしょう。

» 2012年04月18日 11時00分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]

 アイデアクラフト・開米瑞浩の「説明書を書く悩み解決相談室」第24回です! さて今回は、2009年11月12日のnikkei.netに載っていた次の文書を参考に、題材を作ってみました。

10月ビール系飲料出荷量、92年以降で最低 景気低迷、消費手控え

 ビール大手5社が12日発表した10月のビール系飲料の課税済み出荷量は、3798万ケース(1ケースは大瓶20本換算)と前年同月に比べて4.3%減った。10月の出荷量としては2004年同月の実績を下回り、現行統計が始まった1992年以降で過去最低。景気冷え込みで消費者が買い控えたことが直撃、ビール市場の縮小に歯止めがかからない(以下略)。

  (2009年11月12日nikkei.netより※現在は記事への直リンクは切れておりnikkei.netのトップページに飛びます)。

 原文はもっと長い記事でしたがこれを基にして、今回の課題用に大幅に簡略化したテキストを作ってみました。

課題テキスト

 ビール大手5社による10月のビール系飲料の出荷量は、3798万ケースと前年同月に比べて4.3%減った。これは1992年以降、10月の出荷量としては過去最低。景気冷え込みによる消費者の買い控えが直撃した。

 単月の出荷量は7月から4カ月連続で過去最低を記録している。酒類別ではビールが6.6%、発泡酒が23.2%減少。価格が安い第3のビールだけが18.6%の大幅増となり、消費者が少しでも安い商品を求めてビールなどから第3のビールに流れる構図が見える。

 居酒屋など飲食店向けの業務用ビールは特に不調で、業務用は市場全体よりも大きい7.1%の減少。消費者が節約のために外食を手控えていることが響いた(元文章を基に筆者が作成。数字は2009年当時のもの)。


 数字を扱うものですので、グラフを書いてみましょう。といっても、出荷量は3898万ケースと数字が1つしかないのでグラフにしても意味がありません。グラフが役に立つのは、複数の数字を比較できる場合です。

 そこで、5つの数字が出ている増減率に注目します。ビールの種類ごとの増減を示す数字を整理すると次のようになりますね。

種類 増減
市場全体 −4.3%
ビール −6.6%
発泡酒 −23.2%
第3のビール +18.6%
業務用ビール −7.1%

 これは記事中にデータが登場した順番のままですが、取りあえずこのままグラフにしてみましょう。

 市場全体はその他の合計なのでそれだけ別枠にしてグラフ化すると上図のようになりますね。普通は縦棒グラフにするところでしょうが、後述するある意図があって横棒グラフを使ってあります。

 この程度でも悪くないといえば悪くないのですが、単にグラフにしただけで満足するのでなく、そこで一言問い直してみましょう。

 「そのグラフは、その結果が持つ意味をハッキリ示していますか?」

 結果が持つ意味、というのは例えば今回の話題で言えば「消費者が少しでも安い商品を求めてビールなどから第3に流れる構図」という注釈です。この解釈が正しいのであれば「高いものほど売れなくなっている」のが自然ですので、市場全体を除く4つを値段が高い順に並べて、分かりやすいように注釈を付けてみましょう。

 ちなみに「横棒グラフを使った意図」は、「値段が高い順に上から並べる方がより自然に読めるだろう」ということであって、値段の順に並べてさえあれば実際には縦棒グラフでも構いません。

 さてこれで「ごらんの通り、消費者が少しでも安い商品を求めてビールなどから第3に流れる構図が見える」と言えるかどうか……これはちょっと微妙なところですね。消費者が払う単価は飲食店で飲まれる業務用ビールが最も高く、以後順番にビール、発泡酒、第3のビールと安くなります。しかし最も出荷減少が激しいのは安い方から2番目の発泡酒であって、単に安い商品を求めてという解釈には不自然な気がします。

 では一体どんな解釈が妥当なのか、は本稿では追及しません。本稿はビール業界の分析が目的ではなく「分かりやすい説明書の書き方」がテーマなので、発泡酒が売れない理由はどうでもいいのです。

 本稿にとって大事なのは、「グラフを書くときは結果の数字が持つ意味が明確になるように工夫をする」という意識であり習慣です。

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