ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う田中淳子のあっぱれ上司!(1/2 ページ)

上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。

» 2012年12月11日 12時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]

編集部からお知らせ

 ITmedia エグゼクティブでの人気連載「田中淳子のあっぱれ上司!」が誠 Biz.IDにて再開します。悩める上司と部下の付き合い方を、企業の人材育成に携わって27年(!)の田中淳子さんが優しくにこやかに指南するこの連載、部下とのコミュニケーションに悩んでいる上司はもちろん、そうでない上司も必見です!


 私が「誰かの背中を見て学んだ」原体験は、入社2年目にさかのぼる。

 ある日、営業担当の先輩と2人で顧客先に出向き、提案説明をすることになった。当時から人材育成の仕事に従事していた私のミッションは、カリキュラムの説明と顧客からの質問に答えることである。電車の中で軽く打ち合わせをし、先輩と私は顧客先に到着した。

 その日は雨が降っていた。寒い日でコートも着ていた。ビルの入口手前で、先輩はバッグを地面に置き、傘をくるくるっと巻き、自分のタオルで水滴を拭った。次にさっとコートを脱ぎ、裏返しにたたみ、左腕に掛け、再度バッグを持った。それを見て「お、ここでコートを脱ぐんだな。水が滴らないように傘を拭くのか。コートは裏返しで腕にかけて……」と私も慌てて真似をした。

 もちろん、ビジネスマナーの本も読んでいたし、前年の新人研修でも習ってはいたが、本番はその日が初めてだった。先輩は言葉では何も言わなかった。私も無駄口をきかず、2人ともただ静かにそこにいた。客先訪問の基本マナーをこうして教えてくれた先輩は、当時入社4年目だったと思う。

 移動の電車で先輩は、こんな話をしてくれた。「営業的な部分は僕が説明するけど、内容に関しては田中さんが対応してね。もし困ったことがあったら……うーん、そうだ、合図を決めておこう。自分のほっぺたを手でなでてくれる? その合図で助け舟出すから」

 顧客先での説明はデビュー戦だったため、緊張しないようにとアドバイスをくれた。その後の商談で、私は「困ったらほっぺたに手。困ったらほっぺたに手」と呪文のように唱えながらも無事説明も質疑応答もこなした。最後までほっぺたに手をあてることはなかった。

 この日、先輩の立ち居振る舞いからビジネスマナーの基本を学ぶだけではなく、提案説明における営業との役割分担を不安に感じることなく体験できた。忘れもしない出来事である。

 よく「上司は背中を見せろ」とか「上司の背中を見て育つ」という言い方をするけれど、この例のように本当に立ち居振る舞いを「背中」で示してくれるケースもあれば、対話しながら学びを得るケースもある。その対話は、社内だけではなく、社外でも行える。社内で仕事を教える場合、どうしても形式ばってしまうが、社外の――例えば、移動中などであれば――互いがよりリラックスし、学びやすいという側面もある。

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