トップビジネスパーソンはなぜ「走る」のかRe:Work !(2/4 ページ)

» 2013年01月18日 10時00分 公開
[三河賢文,Business Media 誠]

Wii Fitから南極への挑戦……ポイントは「ノータイムポチリ」

 小野裕史さんは、冒頭で紹介した私が走るキッカケになった人だ。ゴビマーチをはじめ、誰もが驚くようなレースに挑戦し続けている。

 普段の小野さんはモバイル関連の広告やコンテンツ事業を手掛けるシーエー・モバイルの第1号社員でキャリアを積み、ベンチャーキャピタルのインフィニティ・ベンチャー・パートナーズLLPの代表社員として独立。ときに投資先企業の経営全般にも関わっている。

小野裕史(おの・ひろふみ)さん(38歳)

インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ LLPの共同代表パートナー。IBM、シーエー・モバイルを経て独立。数名の仲間と、トライアスロンチーム「Iomare martillo」を立ち上げる。


――以前から、何かスポーツはしていましたか?

 よく聞かれますが、2009年にランニングを始めるまで、35年間まったく運動なんてしていませんでした。インターネットが大好きで、時間があればオンラインゲームばかり。当時の私はまさにメタボ。そこで始めたのが、「Wii Fit」でした。

 実際、Wii Fitで部屋の中を動き回っても、運動にはなりますが楽しくはなかった。なので、ちょっと外に出て走ってみたんです。これが、大きな転機となりました。

バランスボードに乗って、ヨガや筋トレなどを楽しめる任天堂の「Wii Fit」

 最初は義務感があって、1〜2キロをダラダラ走ったり、休んだりの繰り返し。しかし数週間これを続けている中で、体に変化が見えていきました。筋肉痛が起きるようになってきたんです。その筋肉痛は、ランニングに対する体からのフィードバック。筋肉が増えて、代謝が上がる。つまり良い傾向に向かっているこの感覚を得られるようになって、「もう少し頑張ってみよう」と思えるようになりました。

 そんなとき、後輩がフルマラソンを完走した話を聞いたんです。私は負けず嫌いなので、もうその場でフルマラソンへエントリーしましたよ。エントリーは、つまり走る上での目標作りです。思い立ったらすぐやってしまうのは私の性分ですが、これを私は「ノータイムポチリ」と呼んでいます。ここから、私のチャレンジが始まりました。


  運動の習慣がある前と後の小野さん(左が以前)

――これまでで一番印象に残っているレースは何ですか?

 UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ※)が、過酷さでは一番印象に残っています。走り終わった後は、ウソじゃなく白髪が増えていたんですよ。走っている間は「もう2度と出ない」「これでラン人生を終えても良い」とさえ思ったほど。まあ、それでもゴールした後にはすっきり! また出場したい気持ちが湧き上がっていたんですけどね。

(※)富士山麓の約156キロを一周するレース。制限時間は約48時間

 その他にも、2晩寝ずに山を進み続ける「萩往還250キロ」や、北極でのフルマラソンなど、印象的なレースは多いです。2012年11月には、南極の100キロレースを忍者のコスプレで走ってきました!

――なぜ忍者のコスプレで出場したんですか?

 仮装はよくしますが、最初は河口湖マラソンでした。ちょうど、ランニングを始めて1年ほど経ったころです。そのときの仮装は、目玉のおやじ。知り合いのランナーがヒヨコの帽子をかぶって走っているのを見て、面白そうだなって思ったんです。

 それにレースに出ていると、いつも大勢の人が応援してくれます。沿道の応援って、ランナーにとってすごくエネルギーになるんですよね。だから逆に、こちらからも何か仕掛けて盛り上げたいと思いました。

 それからは、本気で記録を狙いに行く以外のレースは仮装することが多いです。クアラルンプールでも大根の仮装で走ったので、既に世界デビュー済みですよ(笑)

――トレーニングの時間は、どのように確保していますか?

 時間は、作ろうと思えば作れるものだと思っています。ただそこで重要なのが、本人の「意志」ですね。ほとんどの場合、この意志の弱さに負けて時間を上手く作れずにいるんじゃないでしょうか。

 特に走る時間なんで、簡単ですよ。例えば仕事へ走って通勤するようにすれば、それだけでなかなかの練習になります。だから、何かを始めようとしたときに「時間がないから」は、ほとんどが言い訳なんですよね。これは、ランニングに限ったことではないと思います。

――「走る」ことを始めて、何か仕事に影響はありましたか?

 考え方が、よりチャレンジングな発想に変わりました。そもそも走れるようになるなんて思ってませんでしたし、自信を付けていくことを学んだんです。「どういう風にすれば成功するのか?」を常に考えるポジティブマインドがセットされて、新しいことにも前向きに取り組めるようになりました。

 また、思考がシンプルになりましたね。走っている間は仕事のことを考えている場合が多いですが、走るとだんだん苦しくなるので、無駄なことは考えなくなっていきます。すると思考がコアなことだけに絞られてくるので、適切でシンプルな思考に到達するんです。何度も繰り返していると、この思考が自分の中でスタンダードになっていきました。

――走ることで、何を目指しているのですか?

 とにかく、まだ経験したことのない「あり得ないチャレンジ」をして、新たな発見をしたいですね。きっとそこには、自分でも発見していない自分自身との出会いがあると思うんです。

 チャレンジすれば、失敗は起きます。これは走ることに限らず、仕事だって同じ。ただそこでどう考えるのかが問題です。きっと「次にどうつなげるのか?」を考えることが、チャンスをつかむためには大切ではないでしょうか。

 それに失敗するのは、求めるものが高いからこそ起こるんだと思います。だってそのレベルに満足してしまえば、失敗だなんて感じませんからね。

 レースタイムで言えば、フルマラソンで3時間切り。100キロマラソンで10時間を切ることが、現在の目標です。何を目指すというよりも、常に上を目指していく。だからこそ、もっともっと頑張れる。私は、そう考えています。

――最後に、メッセージをお願いします。

 どんな小さなことでも、とにかくチャレンジしてみてください。私は良く自分の中での1つの指標で「心の羅針盤に従う」という表現を使うんですが、面白そう、あるいは興味があると感じたら、まず心のままに動く。そして、動くからには全力でチャレンジしていくんです。

 サッカーのオープンスペースをイメージしてみると、分かりやすいのではないでしょうか。じっと動かずにいると、どんどんディフェンスが集まって本当に動けなくなってしまいますよね。動き回るからこそ、チャンスが生まれるんです。私だって全く運動ゼロの状態から、35歳で走り始めてこれだけのレースに出られるようになりました。小さなチャレンジから、今まで見えなかったことが見えてくるはずですよ。

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