ある企業のIT担当者の例だ。
彼は、社内のIT化を推進する立場であるだけでなく、社内のよろず相談役でもあった。PCそのもの、あるいは、システム操作時、こまった事態に遭遇したら、皆、彼に電話したり、彼の席まで質問しにいったりする。彼は自分が社内では一番ITに詳しい人間であると自負していたので、どんな質問でもどーんと来い! と構えていた。ただ、実際は自分が想定しているほどには社員が相談にやってこない。困っていることがないはずはないのに、大丈夫なのだろうか、と気になっていた。
例えば、新システムを導入したときには、その操作を覚えるために質問が多く出てくるはずなのに、あまり相談されない。「もしかすると旧システムをまだ使い続け、新しいシステムの勉強を始めていないのではないか」と懸念した。いずれ旧システムは使えなくなるのに、このままではいけないと思ったのだ。彼は一計を案じ、自分が回遊することにした。
100人規模の企業だったので、1日に何度かオフィス内を歩き回ればほぼ全員と顔を合わせることができる。なんとなく、誰彼となく目についた人に声を掛け、「何か困っていることはありませんか?」と問いかけるようにした。すると、これまで自分の席まで来て質問することはなかったような人でも、やはり疑問を抱えていることが分かり、「ちょうどいいところに来た。これ、教えてもらえます?」と言われるようになった。自分から相手に近づいていくとたくさんの質問や相談を披露することができるのだな、と実感し、以前にも増して、回遊をするようになった。
回遊によって現場からの相談をよく受けるようになった一方で、「しょっちゅう声をかけてくるので気が散る」などと感じる人も出てきた。「なぜ歩き回っているのか」という彼の想いや意図が伝わっていないことが原因だ。そこで、IT部門の取締役が全社員にアナウンスした。「現場を回ることでみなさんの声を拾って、迅速にサポートしようと思っています。聞きたいことがあれば、そのタイミングをとらえて、どんどん質問や相談をしてください」と。
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