そういえば、以前、こういう経験をしたことがある。
米国や欧州で推進しているあることを日本にも導入しようということになり、私がその担当となった。何から手掛ければよいのか暗中模索の中、欧州から入手した情報を元に、資料の日本語化から始めた。試行錯誤を続ける中、数カ月経過した時、上司から突然こう言われた。
「田中さん、ごめんなさい。昨日、米国や欧州、日本で話し合って、日本ではこの取り組みを推進する話は取りやめになったということなんだ。ボクも上司から言われたばかりで動揺しているのだけれど、田中さんは1人でずっとやってきたから、ショックだと思う。本当に申し訳ない」
青天の霹靂(へきれき)なニュースだった。ものすごく衝撃を受け、その日の午後は何も手につかなかった。「これまでしたことはどうなる?」「明日から私は何をするの?」と頭の中が混乱した。
とはいえ、この時の上司の伝え方はとてもよかったと今でも思う。上司も何が起こったか全く分からなかったようだ。各国拠点の上層部だけで決定したことだったからだ。それでも「ウエが決めたことだから」ではなく、「ボクも動揺しているが、あなたはもっとショックだろう」と自分の言葉で伝え、「申し訳ない」と詫びてくれた。
大切なことを部下に伝える時、自分の言葉で、自分の想いを、自分主語で表現することはとても重要だ。言いづらいことを自分の言葉で語るといったことも含めて、「上司」という役割を背負ったということなのだと思う。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
- 著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など
- ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
- Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
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