私は「○○警察24時」というドキュメンタリー番組が好きで、放送されているとよく見ます。そうした番組の中でよく聞こえてくる警察官の言葉は、「前の車、蛇行運転はやめて止まりなさい」のような、「○○してはいけません。○○しなさい」という「禁止(否定)+命令」です。
この方法に従えばW杯のあの日、警察官の任務が「交通の秩序を保つ」ことにあったとしたら、「そこで立ち止まらないでください。歩道に入れるように道を広く開けてください」「肩車をして騒ぐのはやめてください。ルールとマナーを守りなさい」のような言葉の投げかけになっていたはずです。
警察官がこれらの言葉を使うのは、その行動をやめて欲しいからにほかなりませんが、自分が取っている行動を「禁止」されたり、「否定」されたりすると、多くの人が抱くのは「怒り」や「反感」です。その結果、相手から受け入れてもらえず、コミュニケーションが成り立たなくなってしまいます。にもかかわらず「命令」によって力づくでも動かそうとしてしまうので、ますます拒否反応が起こります。
しかしDJポリスは違いました。最初に「交通の秩序を保つ」ことには直接関係のない「チームワーク」「フェアプレー」「チームメイト」「W杯」「日本代表」など、サポーターの周りにある言葉を使っていました。そして、サポーターとの信頼関係を作った上で「道を広く開けてください」「交通ルールとマナーを守りましょう」のような、交通秩序を保つための誘導をしていたのです。
場の一体感を作りながら周りの人を望ましい姿に導くための方法として、シンプルなルールがあります。それは「合わせる+導く」の組み合わせです。
人は「合う」ことがあると、自然と好感や親近感を抱く傾向にあるようです。例えば「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、同じような服装、同じ雰囲気、同じ声のトーンや話し方のリズム、同じ言葉使い、同じ趣味、生まれが同じ都道府県だったりすると、それだけでなんとなく親近感が湧いて「この人なら、もう少し耳を傾けてみようかな」と思います。
DJポリスもそうでした。サポーターがよく使う言葉、感情、置かれている状況に合う言葉を使っていましたし。盛り上がっている声のトーンや雰囲気も合っていました。それは、意識的にそうしていたのか、そうでなかったのかはご本人に聞かないと分かりませんが、少なくとも普通の警察官のような大きな声で威嚇しながら「禁止(否定)+命令」するよりも、「合わせる+導く」ことで場に親近感や信頼感、一体感が作られ、その後の「導き」が上手くいったのではないかと考えています。
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