広島会場で紹介されたのは、家事代行を行うミニメイドサービス「オアシス」の事例だ。基本的にはクライアント宅にスタッフを派遣して掃除を行うが、「一生涯のお付き合い」といえるほどのきめ細やかなサービスを提供する。
メイドサービスは非常に特殊な業務で、例えば「風呂場の掃除をした結果、シャンプーとリンスの位置が左右逆になっていたらクレームが来ることもある」という。なるほど、頭を洗うときにシャンプーだと思って出してみたら、リンスだったとなると文句の1つも言いたくなるかもしれない。
そのため、どんなに細かいことも記録として残さなくてはならない。スマートデバイス導入前、澤社長は従業員からFAXで送られてくる業務リポートのすべてに目を通していた。その数、1日当たり約100枚。A4サイズのリポート用紙に細かいことがびっしりと書き込まれた業務リポートだ。
「サービス品質の維持のために、人間の記憶で対応するのは限界に達していました」(澤氏)――そこで登場したのが、ITコーディネータの野中栄一氏だ。従業員にスマホを支給し、業務管理システムを一新した。客先でミニメイドサービスを終えた従業員は、帰宅途中に業務リポートをスマホから入力できるようなった。また、受け取ったFAXをデータベースに入力するだけで1日の作業が終わってしまっていた事務所スタッフ1人が解放された。
澤氏は、「年配のスタッフも多く、私を始め、社内にITに詳しい人がいないというアナログな企業でした」という。どうしたら、全スタッフにスマホを使ってもらえるのか。野中氏は、スマホを使うことで、自分の仕事がどれだけやりやすくなるのかを説明した。
「直帰後に、自宅で業務リポートを書く必要がなくなる」「みんながいい情報をきちんと入力すれば、自分の仕事がやりやすくなる」「申し送りがやりやすい」「全スタッフで共有すべき情報をリアルタイムで得られる」などなど。
オアシスの場合、事務所に寄らず、担当先に直行直帰になることが多い。そして、多くの従業員は自宅に帰れば、主婦としての仕事が待っている。食事の準備やそのほかの家事が一段落した後に業務リポートを書くよりも、帰宅途中の電車の中でスマホから報告を終えられることは大きなメリットだった。
「仕事がしやすくなることが分かれば、社員は導入に意欲的になります。開発段階でもスタッフからの要望が多数寄せられ、それがシステム開発に生かされています」(澤氏)
山崎文栄堂、オアシスともに、導入したスマートデバイスを全社員が使えることに腐心している。「導入によって、仕事がどれだけやりやすくなるのか」というイメージを全社員が共有できること、そのためには導入を決めたトップの「最後の1人まで面倒をみる」という熱意が決め手だった。あくまでもスマートデバイスはツールであり、導入することがゴールではないのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.