コミュニケーションの「量」が新しいアイデアを生む:「ユニット式営業組織」のススメ
ここから攻めれば注文が取れる、という顧客の心理に響く糸口が見つかると営業はとても楽になりますが、そのアイデアを見つけるのは大変です。新しいアイデアを見つけるために必要なもの、それはコミュニケーションの「量」でした。
まだ1人で営業に行っているんですか? 〜2人で始める「ユニット式営業組織」のススメ〜
ほとんどの会社で「営業」は単独行動が基本になっています。しかし著者はあるとき、2人で営業に行くほうが、はるかに契約を取りやすいことに気がつきました。それは決して偶然ではなく、現代の「営業」現場の持つ本質的な理由がそこにはあったのです。
こんにちは。営業一筋で35年やってきたくせに、今では「中小企業のための、営業を不要にする営業コンサルタント」という矛盾した自己紹介が気に入っている吉見範一です。
先日、名刺そのものが営業マンの役割をしてくれるスグレモノ「仕事が取れるビジネス名刺」のプロにお願いして、新しい名刺を作りました。そのとき依頼されたのが顔写真です。探しましたね。カッコいいタレントさんのブロマイドのように写ってる写真がないものかと。で、それに近いやつを3枚選びました。ニッコリ微笑んでパッとそれを差し出したら「うーん。後日、撮影しましょうか」とあえなくボツ。「とりあえずこの怪しいマジシャンみたいなのはナシですネ」って、わたしそんなに怪しく見えますかねえ?
なんて、アホな話もほどほどにして本題に入りましょう。突然ですが今日は、ある軍事オタクな友人と話していて気がついた話題からです。
軍オタ氏 有利な戦いを進めるためには、敵軍が何をしようとしているのか、その意図を察知するのがすごく大事なんですよ。
吉見 ふむふむ、そりゃそうだよねえ。でもそれが難しいんでしょ。
軍オタ氏 そこなんですよね。だから諜報活動ってのが大事なんですが。
吉見 なになに、スパイの話? 007? ジェームズ・ボンド?
軍オタ氏 いや、あれは映画ですから。
吉見 あはは、ごめんね〜。
なーんて馬鹿な話をしているうちに、ふと、そう言えば営業でも一緒だな、と思い当たる話題が出てきたのです。
軍オタ氏 敵軍の情報通信量の計測も大事なんですよ。
吉見 ふーん、それって暗号解読のために?
軍オタ氏 いえ、暗号解読できなくてもいいんです。「通信量」なんです。
吉見 量? 何の情報か分からなくてもいいの? 「通信量」だけ?
軍オタ氏 そうそう、暗号読めなくてもいいんですよ。例えば東部戦線方面で新しい作戦始めるとするじゃないですか。そうするとその前に必ずそっちの通信量が増えるから、「近いうちになにかあるな」と分かるわけです。新しいこと始めるときにはどうしても打ち合せが必要ですからね、通信量が増えるんですよね。
吉見 そっかそっか、なるほどねえ。ん? 待てよ、これって……。
そういえば営業でも、同じだな。と怪しいマジシャン吉見の頭脳に閃いたわけです。新しいことを始めるときにはどうしても打ち合せが必要だ。だから、通信量が増える。
思い出したのは、ユニット営業を始めたときの光景です。わたしが明美ちゃんとユニット営業を始めた時、なにしろ2人で行くからいろいろと話すわけです。
- 訪問を終えたお客さんの反応について
- これから訪問するお客さんの見込みについて
- 営業ツールの構成について
- お客さんの業界特有の商習慣について
- ライバル企業の接触頻度について、などなど
これってまさに2人の間の「通信量が増えている」状態ですよね。1人でノルマを抱えてバラバラに行動していると、お互いに話をする機会も動機もそれほどありませんから「通信量」が増えません。それに対して、2人で組んでいると、お互いの知らないことを教え合い、違った見方について意見を交わし、それが刺激になって新しいアイデアが生まれてきます。
この様子を外から見ていたら「なんやあの2人、くだらんおしゃべりしてやがんなあ」という感じに見えるでしょうねえ。え? 誰ですか「吉見のヤロー、かわいこちゃんと同行で浮かれやがって」なんて言ってるのは。うらやましがらないでくださいね、仕事なんですから、仕事(笑)。
まあそう考えてみたら「似たもの同士はペアを組ませてはいけない」のも分かりますよね。50のおじさんと若い女の子なら例えばこんな会話が成立しますが
吉見 ホットケーキ? 懐かしいなぁ。でもそれって子供の食べ物だろ?
明美ちゃん やだあ。昔の食べ物みたいなこと言ってると笑われちゃいますよ。
吉見 ホットケーキのどこが新しいんだ?
明美ちゃん ファミレスのRチェーンってありますよね。ホットケーキ食べ放題に女の子が殺到してるの、知りません?
吉見 そ、そんなに人気があるのか!
明美ちゃん それだけじゃなくって、リコッタパンケーキとか……。
吉見 リコ ? 何? 残った残ったじゃないよね。
明美ちゃん それじゃお相撲さんじゃないですか! リコッタ!! あんまりおいしいからシドニー中のカフェが真似をしたっていう伝説のメニューなんですよ。リコッタ目当てのお客さんも多いんですから!
吉見 へえー! ホットケーキでレストランを選ぶのかあ。子供のおやつなんて言ってられないね
これが同じ体育会系ゲンキ営業タイプの30男同士だとこんなになってしまいます。
松岡くん このファミレス何でこんなに混んでるの? ホットケーキ? うわっ、でかっ! あんなもの、よく食えるなあ。それより腹減ったあ。なんかない? ガッツリ系のパワーが出そうなヤツ。
金本くん おおっ、このランチメニューのA定食。ボリュームありそうっすね。
新しい発見が出てきません。
違うタイプの人間同士だと、お互いの差を埋めるための「コミュニケーション」がどうしても必要になります。そしてその中から、見込み客の心理障壁を突破する切り口が生まれてくる。そういうことだったんですね。単純な話ですが、新しいことを始めるときには必ず通信量が増える。コミュニケーションが増える。軍事的な知識も時には役に立つものです(笑)。
ところで、それなら逆に
- 社員の中から新しい工夫が生まれるようにするためには、コミュニケーションが増えるような手を打てばよい
ということも言えそうです。といっても言うのは簡単、実現するのは難しい。いい仕事は、いいコミュニケーションから! みんな、なんでも報告してくれ! なんて社長や部長がいつものように上から目線で訓辞を垂れたって誰も聞くわきゃありませんよね。
- まーた気楽な思いつきで変なこと始めやがって。
- なーにが営業情報システムだよ。
- 帰社してからこれに報告書入力しろだあ? どうせ誰も読まねえのによ。
- そんな暇あったら帰って寝たいよ、頼むよ……。
という心の声が、あっちからもこっちからもこのエスパー吉見の耳に届いています。いつの間にエスパーになったんだなんてツッコミは禁止です。どうしましょう、どうしたらいいんでしょう?
上から目線じゃだめなんです。上から目線じゃだめ。どうやってたかなあ……と考えているうちに、思い出しました。
「どうせ誰も読まねえのによ……」と、うんざりするような思いで報告書を書かされた経験は、多くの人が持っていることでしょう。特に近年はセールスフォース・オートメーション(SFA)などという流行りのテクノロジーが出てきた関係で、それこそ安易な思いつきで「営業のIT化」に飛びつき、単に営業事務の手間を増やすだけに終わっているケースも少なくありません。
後に残るのは、誰も利用しないゴミデータベースの山。結局使われなくなります。人間は、「言いっぱなし、言われっぱなし」は嫌なんです。コミュニケーションが欲しいんです。「えー! それってすごいね! よかったじゃないか!」と言ってほしいんです。相談には答えてほしい。答えが見えなくても、一緒に考えてほしいんですよね。
コミュニケーションは人と人の間に生まれるものですから、メンタルな部分をケアせずに単に仕組みだけ入れてみたって何も起こりません。カギを握るのは、社長です。社員の中から新しい工夫が生まれるように、コミュニケーションを増やすために社長はどんな手を打てばよいのか?
次回はそれをお話しします。
お知らせ
無名の雇われ営業所長だった吉見範一がなぜ商工会議所No.1講師になったのか? その秘密を解き明す異色のセミナーが開催されます。
- 「吉見範一 人気講師への道」対談セミナー(4月28日夜、池袋にて)
わたし、吉見範一が営業ではなく、講師のトーク術とパーソナル・ブランディングについて語るめったにない機会です! お申し込みはお早めに!
著者紹介 吉見範一(よしみ のりかず)
初対面の人を前にすると極度に緊張して全身に汗をかくほどのあがり症で上手く話せないなど営業には不向きな性格で、営業成績は最下位だった。だがツールを多用する独自の方法を発見し、初年度から全国でトップクラスの成績を収める。現在、キカクウル戦略で「営業を不要にする」営業コンサルタントとして全国の講演で活躍中。著書に『「売れる営業」のカバンの中身が見たい!』がある。
キカクウル戦略とは?
私が提唱している「聞いて・書いて・売る」というコンセプトから生まれた「営業不要の販売戦略」です。
関連記事
- 2人で行くと冷たくあしらわれない、そのワケは
売れなくて困っている新人営業マンと同行してみたら、予想以上にスイスイ売れてしまいました。いったいこれはどういうことなのか? 著者は、2人で行くとなぜか「冷たくあしらわれずにすむ」ということに注目します。 - 売れない新人の同行で得た、思いがけない好成績とは
著者はある時、2人で営業に行く方が、はるかに契約を取りやすいことに気付きました。現代の「営業」現場の持つ本質的な理由が、そこにはあったのです。 - たった1人で「思考のデフレスパイラル」から抜けられますか?
やることなすことうまくいかない……そんなときに人は「思考のデフレスパイラル」に陥ります。商品が悪い、地域が悪い、自分が悪い、とあちらこちらの「悪いこと」が目について仕方なくなるのです。1人でここから抜け出すのはまず不可能。では、どうすれば……? - 名刺の裏、見てますか? 「話を聞いてもらっても売れない」から脱却する名刺交換
「話を聞いてもらっても売れない」――。そんな人は、名刺交換の機会を見直してみてはいかがだろうか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.