立命館小学校はなぜ「FeliCa」を選んだのか Interview: (1/2 ページ)

» 2006年06月18日 18時25分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 FeliCaチップを内蔵し、公共交通向けIC乗車券PiTaPaとの連携も実現した立命館小学校のハイテク児童証(6月7日の記事参照)。このシステムを導入する背景には、どのような考えがあったのだろうか。

 今日の時事日想は特別編として、立命館小学校事務室事務長補佐の前川喜彦氏にインタビュー。ハイテク児童証導入の背景と、教育の場からみたFeliCaソリューションへの期待について聞いた。

photo 立命館小学校のPiTaPa児童証。これをかざすことで、登下校の確認や電車の乗り降りができる
photo 登校時と下校時に、児童証をリーダー/ライターにかざす

代替案だったFeliCaソリューション

 立命館小学校は、関西の名門校・立命館大学の附属小学校として、約2年ほど前から設立に向けた準備が始まった。この中で教育環境の充実とともに重視された要素が、「学校の安全」だ。「学校の安全という面では、いろいろな事件が起きていました。ですから、学校を作る上で安全は欠かせない重要な要素として、設立準備段階から重視してきました」(前川氏)

 特に関西の教育現場に激震が走ったのが、2001年に起きた大阪教育大学附属池田小学校の痛ましい殺傷事件だ。児童8名が犠牲になり、児童13名が負傷した事件の記憶は、関西の学校関係者と保護者の脳裏に生々しく残っている。

 「学校の安全を実現するために、立命館小学校では設計段階から(不審者の侵入を防ぐ)セキュリティの実現に取り組んできました。しかし、ふと気づいたのですが、我々は私学ですから、1時間以上の通学をする児童が出てくる。この通学時間が保護者にとって心配だろうと思いました。学校の中の安全はもちろんのこと、どうすれば『学校の外の安全』について保護者の皆様に安心していただけるか。それを考えなければならなかった」(前川氏)

 当初、立命館小学校が注目したのは、FeliCaではなく、GPSを使ったソリューションだった。東芝をはじめとする複数のメーカーに、「カーナビのように通学路を設定して、通学エリアから外れると自動通報するシステムを要望した」(前川氏)のである。だが、GPSを使ったシステムは実現しなかった。立ちはだかったのは、コストの壁である。

 「技術的には実現できる、と東芝から言われていたのですが、1年ほど前に『(学校向けGPS専用端末の)市場規模を考えると、コストの問題で製品化は難しい』と断られてしまいました。そこで代替案として浮上したのが、FeliCaを使った今のシステムでした」(前川氏)

 ここで補足になるが、児童向けのGPSセキュリティ端末はセコムの「ココセコム」(2001年12月3日の記事参照)など複数の製品が市場に出回っており、私立校を中心に学校での採用も現れている。しかし、これら多くのGPSサービスは親や学校が「子どもの位置を探す」ことで位置情報の確認を行うものだ。

 「奈良の事件(2004年の奈良小1女児殺害事件)では、被害者がGPS携帯電話を持っていながら、残念な結果になってしまった。誰かが位置検索するまで(異変が)わからないのでは、セキュリティ上の弱点を抱えることになる」(前川氏)

 そこで立命館小学校が必要としたのは、「通学エリアから外れたら、自動通報するGPS端末」である。端末側が常にGPSで位置確認をし、設定済みのルートから大きく外れたら、自動的にメールなどで通報する。しかも低学年も含む全校生徒が持つことから、携帯電話はNGだ。「GPSおよび通信機能を内蔵した小型の専用端末」という事になる。このような端末とサービスは当時は存在せず、メーカー側がコスト面で躊躇したのは無理からぬところだろう。

PiTaPa連携で「通学時の安心」を

 代替案として浮上したFeliCaソリューションであるが、関西では公共交通分野での利用が広がっているという「追い風」が吹いていた。関東ではJR東日本での普及が先行したが、関西ではJR西日本とスルッとKANSAIがFeliCaを採用。特に後者の「PiTaPa」は料金の自動割引を筆頭に様々な応用サービスの開発に積極的だった(4月10日の記事参照)

 「PiTaPaでは駅改札口の通過状況をチェックし、それをメールで配信する機能があったのですが、この仕組みを児童証に取り入れるという提案がありました。導入検討時点では、PiTaPa対応駅は拡大中の段階で、『本当にすべての駅で使えるようになるのか』という不安はありました。しかし、我々にとって安全は重要な課題であり、(見切り発車でも)PiTaPa連携を前提にFeliCa児童証を導入すると決定しました」(前川氏)

 立命館小学校の児童証は、登下校時と、駅への入場・退場、乗り継ぎでの改札時に保護者にメールが届く。

 「携帯電話へのメール配信ならば『受け身』ですから、(GPSのように)保護者の方がいちいち検索する必要はない。それでいて、きちんと電車を乗り継いでいるか、学校に到着したか、という事が確認できます」(前川氏)

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