当初は新事実にとまどいを隠せませんでしたが、一方で腑に落ちる部分もありました。武田氏の戦略・戦術を記した軍学書「甲陽軍鑑」に描かれる信玄は、風林火山の旗印を掲げ、軍神・上杉謙信と何度もぶつかり合う猛将です。しかし、書状や逸話から信玄の人間性を知れば知るほど、繊細で「乙女」とも思える一面が垣間見られるのです。
例えば、信玄の苦手なものは「芋虫」。まるで女の子みたいですよね。家臣の馬場信房はそんな信玄を心配して、なぜか鏡餅を乗せる三宝に青虫を乗せて、「天下一の武将として芋虫が怖いではみっともない!」と信玄の目の前に突き出します。
すると信玄は、躊躇(ちゅうちょ)しながらも「芋虫なんぞ、怖くないわ!」と芋虫を握りつぶします。その手は真っ青になり、見ると信玄の顔まで青くなっていました。
先ほどの1枚目の肖像画からは想像できない逸話ですが、2枚目の線の細い信玄なら芋虫が怖くてもおかしくない気がします。信玄を肉食男子、草食男子の類でカテゴライズすると、肉食に見えて実は草食な「アスパラベーコン男子」に当てはまりますね(ちなみに、その逆はロールキャベル男子といいます)。
そんな信玄の乙女な一面について取り上げたいと思います。まず思い浮かぶのが、恋人に宛てた浮気の弁解の手紙。
「確かに弥七郎に言い寄ったのは事実だよ。でも腹痛だというから一線は越えなかった。うそじゃない。弥七郎には昼も夜も、今まで一度も伽(とぎ)の相手をさせたことはない。お前と仲直りしたいから努力したのだが、かえって疑われてしまって困っているよ」
という内容です。
信玄26歳。腹痛で断られたなんて苦し紛れの言いわけで、少々男らしくない印象を受けます。
ちなみに、浮気相手も、言いわけをしている相手も男です。男同士の三角関係は現代では理解しがたいですが、戦国の武士にとって、主従関係を深めるための衆道は当たり前の文化でした。
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