そういうインチキに走ったジヨンさんだが、仕事ぶりは誠実そのもので、講義の前には徹夜で準備をして、週末には無料公開講座を開催。出席率のいい生徒にはさまざまな学習資料を追加提供するなど「営業」にも熱心だったという。カミングアウト後、ジヨンさんはこのように言っている。
「嘘で固めた学歴を実力でカバーするため、他人より一層努力した」
川上さんは2007年に『MBA講義生中継 経営戦略』(TAC出版)なる本を出している。MBAを取得していない人がMBA講義の本を出す。当然、そこには相当な努力があったはずだ。また、テレビやラジオだけではなく、多くの経営セミナーなどでも登壇している。さすがに、知識ゼロで60分や90分語れるわけはないし、受講した人間からもおかしいという声がでるはずだ。それがなかったということは、川上さんもジヨンさんも同様、人の何倍も努力をされたはずだというのは容易に想像できる。
「嘘」のカバーというのは、「人柄」にもあてはまる。韓国の経歴詐称問題の発端となった東国大のシン・ジョンア助教授は、川上さんと同様に高卒だったが、「米有名大学イエール大の西洋美術史の博士号」というウソの経歴を武器に、美術界でのしあがり、国際美術展「光州ビエンナーレ」の責任者という大役まで務めた。
もちろん、経歴だけで成功をしたわけではない。実力はもちろん、話術をはじめ抜群のコミュニケーション能力があった。シン助教授と同じ美術館に勤務した職員はこのように述べている。
彼女は、自分のキャリアにプラスになる人間には誠心誠意仕えた。美術界の大物たちとの会合ではイスに背をつけないようにして礼儀を尽くし、交際する価値ありとみると贈り物攻勢。大物の意見には異論を挟まず、尊敬しますといつも口にする。そんな態度を大物たちは気に入っていた。(AERA 2007年10月8日)
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