2015〜2016年にかけて、1本500円(税別)の商品がインターネット上で話題となった。「ゆかりペンスタイル」というペン型の文具に見えるふりかけだ。キャップを取ってペン先を振ると、ふりかけのゆかりが出てくるもので、SNSで拡散されたほか、テレビの情報番組でも何度か紹介された。
当初は月に1000本程度の販売数だったが、人気に火がつくと、わずか数分で3000本が売れて品切れとなり、その後の販売再開では1日で1万2000本の注文が入ったという。
「手作業でつくるので生産が追いつかず、注文に対応できていません。今でも品切れでお客さまにはご迷惑をおかけしています」(三島食品社長の三島豊氏)
実はこの商品、毎日ふりかけを持ち歩く社長のために、部下の社員がこの容器を探してきたことが誕生のきっかけ。もともと静岡のお茶メーカーが粉末茶の携帯容器として開発したものだという。
普段、焼酎にゆかりを入れて飲むという三島氏が、地元・広島の飲食店で店の女性たちを前にこのペン型のゆかりを披露したところ、「欲しい」という声が相次ぎ、これを発売したらどうかと社内に打診したのだ――と紹介すると、トップダウンにより全社一丸で開発したと思うかもしれないが、実情は違う。「最初はまったく無視されました(笑)。以前、私が提案した『青大豆とわかめのふりかけ』が大失敗したので、私の商品提案は社員に信頼されていないのです」と三島氏は明かす。
権威主義でない社内の雰囲気がうかがえるエピソードだが、もともと同社の商品開発は、綿密な調査データを駆使する手法は取らない。ペン型のゆかりは社長の体験談だったが、営業担当者が小売現場で聞いた話を参考に商品開発をすることもある。現在は約480種類のふりかけを展開する同社は、業務用も多く手掛けており、業務用を小売り用に変えて、ヒット商品につなげた例もある。
「長年業務用で販売してきて、そろそろ廃番にしようと思った、かつお味のふりかけがありました。これを『のり弁の秘密』というネーミングに変えて、ハシで海苔をめくるパッケージで発売したところ、大人気となったのです。この商品を『おかか』や『かつお風味』のネーミングで、ありふれたパッケージにしても売れなかったでしょう」(三島氏)
調査データでは消費者の深層心理に迫ることは難しい。そこで同社では「何かのきっかけで一気に売れ出す時代なので、まずは発売してみて消費者の反応を探る」(同)姿勢を貫いているという。
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