寝台特急「北斗星」の食堂車が授かった新たな使命杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2016年06月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

食堂車の新オーナーは介護サービス会社

敷地は元村長で大地主の名倉家だった。立派な和の庭園がある 敷地は元村長で大地主の名倉家だった。立派な和の庭園がある

 食堂車レストラン「グランシャリオ」を開業した企業はピュアホームズという。川口市を中心に新築住宅、介護リフォーム、福祉用具の販売・レンタル、在宅・訪問介護事業を展開する会社だ。その事業の1つに給食センターと飲食店の経営がある。飲食店は埼玉県蕨(わらび)市と川口市で展開している。

5月1日に近隣の人々を招いた開業記念イベントを開催したという。奥の民家が「リストランテ ナグラ」 5月1日に近隣の人々を招いた開業記念イベントを開催したという。奥の民家が「リストランテ ナグラ」

 ピュアホームズは2000年に個人事業として発足した。主に高齢者の住宅向け手すり設置工事を手掛け、そこから住宅改修工事へ発展した。2000年と言えば、介護保険制度が始まった年だ。同社は顧客の要望に応える形で事業を拡大し、飲食店経営に至り、地域に貢献する総合企業となった。

 このうち川口市では広大な敷地を「ピュアヴィレッジ なぐらの郷」と名付け、サービス付き高齢者向け住宅「ピュアテラス東川口 壱番館」とイタリアンレストラン「リストランテ ナグラ」、「そば名倉」、「ベーカリー&カフェ ナグラ」を置く。グランシャリオはリストランテ ナグラの和風庭園に隣接する形で設置された。

 ちなみに名倉はこの地域の大地主さんだ。リストランテ ナグラは80年以上の趣ある名倉家住居と庭園を引き継いでいる。そば名倉は新潟県に江戸時代から建てられていた古民家で、名倉氏が移築した建物を使っている。古き良きものを大切にし、落ち着きのある空間を作った。その意味では北斗星の食堂車も「古き良きもの」の1つだ。

介護事業の「悲しい現実」から飲食店経営に進出

当地への搬入の様子がピュアホームズの公式サイトで公開されている 当地への搬入の様子がピュアホームズの公式サイトで公開されている

 ピュアホームズの外食事業のきっかけも介護サービスからだった。デイケアサービス利用者に温かい食事を提供するため、セントラルキッチン方式の給食施設「キッチンびゅあ」を開始。平日の食事提供を開始した。土曜休日は趣向を変えて、近隣の弁当店を利用したり、送迎車による外食ツアーを実施したりしていた。この外食ツアーは利用者に人気だったという。

 ところが、人気の外食ツアーは問題を抱えていた。今まで受け入れてくれた飲食店側から「遠慮してほしい」と断られる事例が増えてきた。外食産業にとって週末は忙しい。しかし高齢者団体は入退店で渋滞しがち、トイレも混雑し、車いすも幅を取る。食事も遅く、要するに回転率が悪くなる。最近はバリアフリー、ユニバーサルデザインの店舗も増え、外食産業の理解も深まっているとはいえ、介護事業の「悲しい現実」がある。

 ピュアホームズとしてもその点は理解できる。しかし、外食を楽しみにする高齢者がいる。ならば、自前で外食産業を始めてしまおう。これが外食事業のきっかけだったという。ただし、高齢者専門の飲食店ではない。ごく普通のレストランとして構えつつ、高齢者とその家族がともに楽しめる店、自社だけではなく、他社のケアサービスも受け入れる店を作った。グランシャリオもその1つというわけだ。旅行とは縁遠くなった高齢者も、食堂車で旅を疑似体験できる。今後はアプローチの階段そばに昇降機や、利用しやすいトイレの設置も検討中とのこと。

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