寝台特急「北斗星」の食堂車が授かった新たな使命杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2016年06月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 東京・上野と札幌を結ぶ寝台特急「北斗星」は2015年3月に運行を終了した。鉄道ファンだけではなく旅行者にとって、同区間を走る「カシオペア」と並ぶ人気だった。人気があるにもかかわらず廃止された理由は、客車の老朽化と北海道新幹線開業にともなう青函トンネルの運用変更だ。

 ただし、カシオペアは団体専用列車として存続し、青函トンネルはJR貨物の機関車を借りて走る。北斗星の場合は、主な理由が客車の老朽化だから仕方ない。

 旅人たちにとって思い出深い北斗星の客車を保存しようという動きがあった。その1つは北海道北斗市商工会の「北斗の星に願いをプロジェクト」だ。移設費用のクラウドファンディングに成功し、当初の目標金額を上回る1588万5000円を集め、寝台車2両の保存が決まった。

 私もクラウドファンディングに参加し、動向を注目していた。まだ1両目の保存に必要な金額が集まっていなかった4月5日、新たな車両保存の情報が公開された。埼玉県川口市の企業がJR東日本から北斗星の食堂車「スシ24 504」を譲受し、レストランを開業するという。場所はJR東日本の武蔵野線と埼玉高速鉄道の東川口駅から徒歩8分、開業予定日は5月1日とのこと。

東川口駅から徒歩8分の場所に設置された食堂車 東川口駅から徒歩8分の場所に設置された食堂車

 北斗星の食堂車の保存が確定したことは嬉しい。しかし、寝台車のクラウドファンディングは進行中だ。そんな時期だったから、正直に告白すると、ちょっとだけ悔しい気持ちもあった。「鉄道ファンのオーナー社長が、大金を積んで趣味を楽しんでいるのだろう」と、うらやましくもあった。しかし、それは私の勝手な思い込みに過ぎなかった。

 5月22日、北斗星への思いが深い友人とディナーコースを楽しんだ後、改めて取材をお願いして、同社取締役の山崎真之介氏に話を伺った。意外にも社長は熱烈な鉄道ファンではないというし、北斗星に特別な想いを寄せる社員もいないらしい。むしろ、埼玉高速鉄道をはじめ、鉄道に詳しい人々の協力を得てレストランの開業に至ったという。

 一体なぜ、スシ24 504は川口市にやって来たのか。食堂車に託された思いは何か。そこに、日本の社会が抱える問題と地域活性化の希望があった。

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