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» 2016年06月09日 08時00分 公開

全員が「同じ月」を見て、「お母さんに嫌われない」ゲーム機を開発した任天堂Wii 開発回顧録 〜岩田社長と歩んだ8年間〜(2/3 ページ)

[玉樹真一郎,ITmedia]

お母さんに嫌われないゲーム機

 かつての私は、自分の好みで商品など企画をしてしまうくせがありました。「かっこいいから!」「こういうのが良いと思うから!」という幼稚な理由でデザインしていたのです。当たり前ですが、そんな企画は通りません。

 もちろん岩田さんも「DVDケース2つ分ぐらいだったら、かっこいいから!」なんて考えてリクエストを出しているわけ……ありませんよね。コンセプトという最大の目標があり、そこを基準に「だから、だから、だから……」と論理的に考えた結果として仕様があるべきですし、それこそがデザインの本質です。岩田さんが理由なしに何かを言ったことを、私は聞いたことがありません。

 Wiiは「お母さんに嫌われない」というコンセプトを掲げています。補足すると「お母さんに嫌われない(テレビゲーム機)」となります。このコンセプトは一見すると、良いことをそれなりの言葉でまとめた凡庸なものに見えるかもしれませんが、当時のテレビゲームを取り巻く状況を考えると実現不可能、支離滅裂なことを主張している過激な言葉です。

お母さんに嫌われない、片付けなくても良いゲーム機を(写真はイメージです) お母さんに嫌われない、片付けなくても良いゲーム機を(写真はイメージです)

 当時の家庭では、今以上にゲーム機はつまはじきされるものだったと思います。特にお母さんは懸命に部屋を片付けているのに、子どもに悪影響を与える(とされている)ゲーム機がテレビの近くにドーンと鎮座している様子を見ると、ゲーム機を片付けざるを得ませんでした。ゲーム機はさまざまなケーブルでテレビ、電源、コントローラなどとつながれていて、とても「散らかっているように見える」プロダクトでしたから、仕方ないことでした。そんな状況を100%変え、お母さんに嫌われないゲーム機を作ろうというのですから、荒唐無稽(こうとうむけい)な主張なのです。

 そんな大きな問題に対してWiiがとったアプローチは、「本体を小さくして、テレビの横に置いてあっても気にならず、片付けられもしないようにする」ことでした。さらに、ここまでの話を読んでもらえば、もう1つ、Wiiの大きな特徴の理由についても気付いてくれた人がいるかもしれません。先ほど私はこう書きました。

 「ケーブルによって、散らかっているように見える」

 そう、従来のゲーム機は本体とテレビなどをつなぐケーブルが乱立していました。そこでWiiでは無線コントローラやWi-Fiを採用して、極力そうしたケーブルの散らかりをなくそうとしたのです。

 ついでにもう1つ、Wii本体はなぜ白いのでしょうか。これは恐らく、お母さんに嫌われないために、お母さんが日々使う電化製品、冷蔵庫や洗濯機や電子レンジといった「白物家電」の印象と合わせたのだと思います。

 なぜ、思います、と断定できないかといいますと、Wii本体の仕様で、私が考えたものは1つもないからです。その意思決定の最後に私が居合わせたことすらありません。しかし、私はこれらの仕様を知ったとき、最高に気持ち良かったのです。

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