土肥: なるほど。というわけで、教室の隣でピアノを販売していた?
伊地: いえ、違うんですよ。当時は、カタログだけで販売していたんですよね。
土肥: えっ、カタログだけで?
伊地: はい。いまの60歳前後の人たちはカタログを持参して、団地や一軒家を回っていました。ただ、当時サラリーマンの初任給が1万円くらいのときに、ピアノは20万円ほど。とても高価なモノだったので、なかなか売れませんでした。このままではいけないということで、積立のような仕組みをつくって販売することにしたんですよ。
「将来ピアノを購入するために、『頭金』を積み立てません? 月に2000円、3000円でもいいですよ」といった感じで。そこで契約を結ぶことができれば、担当者は毎月自宅まで行って、集金に行っていたんですよね。
土肥: うへー、いまの時代には考えられない。
伊地: ですよね。当社では、そうした営業活動のことを「ローリング」と呼んでいました。上司から「お前、この団地とこの団地に行って来い」と言われて、1日に何百軒も回っていました。
土肥: 「ザ・訪問販売」じゃないですか。でも当時って楽器だけではなく、さまざまなモノが売られていましたよね。家のチャイムが鳴って、誰かなあと思ってドアを開けると、「百科事典はいかがですか?」「英語の教材、必要ですよね?」といった人が営業に来ていましたよ。さすがに、ハブラシを売りに来た人には遭遇しませんでしたが。
ちょっと気になったのですが、お客さんはカタログを見て、「これにしようかな。よし、この30万円のピアノを買おう!」と言っていたのですか? つまり、高級なモノを一度も触らずに。
伊地: はい。購入されて、いざ家の中に入れようと思っても、ピアノが入らないケースもありました。そこでどうしたか? ピアノが入るように、入口付近を改造して、なんとか入れていました。
土肥: なんと! ピアノのサイズをきちんと把握せずに、購入していた人もいたわけですね。そのローリングという営業活動はいつごろまでされていたのでしょうか?
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