任天堂はWii発売後、「家庭内プレイ人口」という調査をしています。Wiiが1台売れて、日本のどこかの家庭に設置されたとき、そのWiiは何人で遊ばれているかという指標です。調査の結果、Wiiは3.5という、類を見ない数字を叩き出しました。当時の一世帯あたりの人数は2.5程度ですから、いかにWiiが家族や親族など皆で遊ばれたかが如実に数字で表れました。
そのほか「Wiiリビングルーム設置率」も83%という非常に高い成果を上げました。当然のことながら、説明書にも箱にも「リビングに設置しろ」なんて書いてありません。ユーザーは商品のCMやホームページなどの前情報と、Wiiの化粧箱や商品自体の形、機能を情報として認識した後、何となく「これはリビングに置くものだな」と理解し、自発的にリビングに設置したわけです。
このように、コンセプトを仕様に変換して商品をデザインすることにより、ユーザーは暗にコンセプトを受け取り、行動に移すという現象を引き起こすのです。逆に言えば、どれだけコンセプトを声高に叫んでも、ユーザーが共感することはほぼないと言っていいでしょう。
加えて、注目すべきこととして、発売後の市場調査によって得られることは「コンセプトが伝わったか」のみであり、売り上げに直接関係するものではありません。しかし、売り上げよりも重要なのです。すなわち、「ユーザーにコンセプトを伝えるという自分たちの能力は、どのぐらいの精度があるか」を把握できるからです。ここで得た手応えは、売り上げにも勝る自信につながります。
ところで、先ほどCMという話題を出しましたが、当時の任天堂のCMは、明確にそれまでのゲーム業界の慣習とは異なったものを制作しています。WiiのCMには、際立って「ゲーム画面が出てこない」のです。ゲームのCMなのに、ゲームが出てこない。ゲーム画面の美しさを作り上げるために、ゲーム会社は膨大なリソースを割いています。お金をかけたからこそ、CMに出したくなるのが人情というものですし、それが岩田さんの立場(=社長)ともなれば、なおさらのはずです。にもかかわらず、なぜ任天堂はそれをしなかったのでしょう。
これもやはり、コンセプトに理由を求めるべきです。Wiiは家族皆に楽しんでほしいゲーム機でした。Wiiによって家族というものをより楽しいものへと変えたかったのです。Wiiを買う前と後とで、家族がより楽しくなることこそが、お客さんにとってのWiiの本当の価値でした。だからこそ、CMからゲームが消え、「Wiiを買うと、家族がこんな感じに楽しくなりますよ」というメッセージを発しているのです。
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