磯部: 1つは、誰が泳いでいるのか分からないということ。プールの中に入っていると、誰が泳いでいるのか分からない。そこで、帽子に名前を書けるようにして、誰が泳いでいるのか分かるようにしてほしい、という声がありました。
2つめは、衛生上の問題。プールで泳いでいると、どうしても髪の毛が抜けてしまう。たくさんの髪が抜けてしまうので、プールの水が汚くなってしまう。そこで、帽子をかぶることで水質の悪化を抑えてほしい、という声がありました。
土肥: なるほど。現場の先生たちも水泳帽子はノドから手がでるほどほしかったわけですね。
磯部: 早速、商品をつくって、営業に回りました。ジュラルミンケースに水泳帽子をたくさん詰め込んで、夜行列車に乗って鹿児島に向かいました。目的地の鹿児島駅に到着して、駅前にある電話ボックスに駆け込み、職業別電話帳で問屋を探しました。
なぜ問屋かというと、当時はメーカーが直接消費者に売り込んではいけない、という商習慣があったから。水泳帽子で言えば、小売りや学校に足を運んで営業をしたい。でも、できないんですよね。商習慣を無視するわけにはいかないので、問屋を回って「水泳帽子いかがですか?」と声をかけまわったのですが、全く売れないんですよ。
土肥: どういうことですか? 学校の先生はプールの授業のときに困っていたんですよね。帽子をかぶれば「誰が泳いでいるのかが分かる」「水質悪化を防ぐ」ことができるのに。
磯部: 問屋は水泳帽子を見たことも触ったこともないので、学校で使うことがイメージできないんですよね。「なに、これ?」「どうやって使うの?」といった感じ。問屋というのは、基本的に小売りが「こういうモノがほしい」というニーズを受けて、商品を並べるわけです。当時、小売りから「水泳帽子を売ってくれないか」という声がなかったので、問屋は扱うことができなかったんですよ。
こちらがチカラを込めて説明していると、「そんなに熱心に言うんだったら、小売りで説明してきてよ」と言ってくれました。問屋では話にならなかったので、小売りに行って商品の説明をしたのですが、ここでもダメでした。小売りも水泳帽子の存在を知らないので、「なに、これ? どうやって使うの?」といった反応でした。そりゃあ、そうですよね。当時は誰も使っていないので、知っているわけはありません。
問屋に行っても「小売りに説明してくれ」と言われ、小売りに行っても「問屋に説明してくれ」といったことを繰り返していました。
土肥: たらい回しのようですね。
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