「小さな大企業」を作り上げた町工場のスゴい人たち

なぜ学校のプールで「水泳帽子」をかぶるのか 知られざる下町企業のチカラ水曜インタビュー劇場(水泳帽子公演)(1/7 ページ)

» 2016年08月31日 06時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

 小学生のときのプールの授業を思い出していただきたい。水の中に入る前に、シャワーを浴びて、体操をする。そして、水泳帽子をかぶって、先生の指示に従って泳ぎ始める。

 なんてことのないごく普通の光景だ。では、ここで質問。水泳帽子はどこのメーカーでしたか? このように聞かれて、即答できる人はほとんどいないはず。多くの人は「そんなこと考えたこともないよ」と思っただろう。

 その昔、学校のプールで帽子を着用する子どもたちはいなかった。いまではちょっと考えられない話かもしれないが、そんな環境の中で50年ほど前に「水泳帽子」を開発し、「市場」をつくってきた会社がある。東京の下町・両国に拠点を置く「フットマーク」という会社だ。

 「ほほー、そんな会社があるのね」と感じられたかもしれないが、驚くのはまだ早い。実はこの会社……介護用のおむつカバーも開発していて、いまでは当たり前のように使われている「介護」という言葉も生み出していたのだ。「な、なんと! スゴい会社だなあ。名前は知らなかったけれど、大企業なんでしょ」と想像されたかもしれないが、現在の従業員は60人ほど。水泳帽子や介護用のおむつカバーを世に送りだしたときには、もっと少なかったのだ。

 いまの時代、優秀なエンジニアがいれば、ヒット商品を生み出すことも不可能ではない。事実、少人数のスタートアップ企業が商品やサービスを開発して、売れているケースがある。一方、当時のフットマークには理系の人間がひとりもいなかった。文系集団が「このままではいけない。なんとかしなければ」「困っている人たちをどのようにしたら助けることができるのか」といった思いだけで、次々にヒット商品を……いや、これまでになかった市場をつくってきたのである。

 さらに、スゴいのは“一発屋”ではないことだ。新しい商品を出して、「はい、おしまい」ではなく、ロングセラーとしていまも売れ続けている。下町にある少人数の会社が、なぜ市場をつくりだすことができたのか。そのヒントを探るために、同社の磯部成文会長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

40年ほど前に学校で水泳帽子が普及した(出典:フットマーク)
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