産経新聞の記事を読むと「子どもがうっかりノッチ(アクセル)を操作したけれど、職員の機転で事なきを得た」で済んだように見える。しかし要請書は詳細に危険を指摘している。
このイベントは運転室を見学させるだけではなかった。「ブレーキ音を聞かせたかった」と、車止めまで8メートルしかない中でブレーキを緩め、ノッチを投入させていた。つまり、3歳くらいの子どもはうっかりノッチに触れたのではない。ノッチの角度に勢いが付いてしまっただけだ。職員側に「電車を動かそうという意思」はあったと読める。
ただしこの記述は曖昧だ。聞かせたかった「ブレーキ音」は、車輪を止めるための「キー」という音だっただろうか。私は少し善意に解釈して、「ブレーキ操作に使う圧縮空気が抜ける音」つまり「プシュー」という音を意図していたと考える。そうでないと手歯止を使った理由が説明できない。しかしパンタグラフを上げて通電していたという状況もある。動かすつもりがあったか、なかったか。要請書は通電させ、電車が動く状態にしていたことが問題だと指摘している。
車庫で電車を動かすというイベント自体は違法ではない。営業しない線路を使った運転体験は、いくつもの鉄道会社が実施している。車両基地公開で最も人気なイベントの1つだ。それは徹底した安全管理が前提である。安全管理を徹底するために、運転体験用の線路と営業用の線路を分離している会社もある。もちろん、動く電車のそばには近寄れない。
中野電車区の事案で問題になるところは、手歯止をかけた電車でノッチを入れたこと。手歯止はうっかりブレーキをかけ忘れたときの移動防止用であって、動力を使って動いた電車まで止める機能はない。今回は引きずった(押し出した)だけで済んだけれど、もし手歯止に車輪が乗り上げてしまったら、子どもたちがたくさん電車を取り囲んでいる中で、電車が脱線し傾く怖れもあった。
さらに恐ろしいことに、こんな一文もある。
「子供が車両の下に潜っていた」等、問題も指摘されています。
子どもたちも保護者も、車庫に留置され、見学に使われている電車が動くなどとは思っていない。今回の電車の移動距離は約35センチだったという。もし、子どもが「車輪って大きいな、ブレーキってどれだろう」と観察し、レールに腰掛けていたらどうなったか。轢断(れきだん)されていただろう。うっかり電車が動いたどころの話ではない。これは死傷者が出かねない事案だった。
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