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» 2016年10月17日 06時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:スズキはなぜトヨタを選んだのか? (2/3)

[池田直渡,ITmedia]

 という背景があって、当然世界中の自動車メーカーは、将来性豊かなスズキと提携したい。しかもスズキは開拓者利益としてインドマーケットの覇者となっているだけではなく、低価格のクルマのコストパフォーマンスを高める技術に関して、明らかなアドバンテージを持っている。スズキは「良品廉価」を掲げているが、それは自称しているだけではなく、周囲の評価も同様だ。フォルクスワーゲンはその価値を高く評価してスズキとの提携を望んだ。

 スズキはインドでの競争激化への対策として、スズキが資本の100%を単独出資するエンジン製造会社「スズキモーター・グジャラード・プライベート」を新たに発足させた。マルチ・スズキ・インディアの株主として長らく共存してきた現地資本への敬意を払い、他資本の持ち株比率を薄めることになりかねないマルチ・スズキ・インディアへの追加増資を回避しつつ、激化するインドでの競争力を迅速に向上させるために、わざわざエンジン製造を別会社にするという配慮を行った。

スズキモーター・グジャラード・プライベートの定礎式 スズキモーター・グジャラード・プライベートの定礎式

 この投資によってスズキがインドで生産するエンジンの最新化が一気に進んだ。日本国内でも最先端である直噴や、マイルドハイブリッドなどの技術を導入した最新エンジンが製造できるようになり、現在ではインドで生産したクルマの一部が日本に輸出されるところまで発展したのである。

 こうした金の卵を産むガチョウとの提携を成し遂げたフォルクスワーゲンだったが、ドイツ政府やニーダーザクセン州と強く結び付いたドイツ屈指の巨大企業であるフォルクスワーゲンはプライドが高く、スズキに対して「経営指導を行う」と、まるで子会社であるかのような発言をし、鈴木修会長の逆鱗に触れた。スズキが申し出た提携解消は係争にまで発展し、裁判を経て昨年8月にようやく決着したのだ。

 スズキは独立独歩の気概が強く、大人しく長いものに巻かれる会社ではない。しかしながら、自動車開発のこれからを考えれば、環境技術や安全装備、自動運転、コネクテッドカー(車両間通信機能)など、基礎技術開発に莫大なコストが必要になる。それをメーカー各社が独自負担したのでは研究開発費がかさみ、回収のために車両販売価格が高騰する。欧州メーカーは既にこうした基礎技術をメーカー横断で割り勘にするスキームを完成している。彼らと戦っていく以上、スズキも何がしかのアライアンスに加わらないと価格競争力を失ってしまう。それではスズキのコアコンピタンスである「良品廉価」すら危うくなってしまう。

 そこにスズキのジレンマがある。主人面をして支配されたくない反面、独立を続けることも難しい。問題を解決するには、スズキの価値を正しく評価し、独立性を認めてくれる相手を見つけなければならなかった。では、果たしてそれにトヨタが相応しいのか? そこに疑義は集中する。

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