連載
» 2016年10月17日 06時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:スズキはなぜトヨタを選んだのか? (3/3)

[池田直渡,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

なぜトヨタを選んだのか?

 率直に言って、かつてのトヨタは提携先にリスペクトを払う企業ではなかった。ダイハツが開発したクルマに、マイナーチェンジの際、トヨタ設計の部品の採用を押し付けるようなことが行われていた。しかもオリジナルのダイハツ製の方が設計が良かった点から見ると、それはただの押し付けではなく、ある種の蹂躙(じゅうりん)に見えた。しかしながら、豊田章男社長体制になってから、そういうパワープレーが鳴りを潜めている。

 例えば、トヨタはスバルの16.48%の株式を有する筆頭株主だが、スバルの独立性を無視しない経営が行われている。マツダとの提携では、具体的な利益プランを明示することなく、緩やかな提携を成立させた。今年8月に完全子会社化したダイハツに対しても「グローバルな小型車戦略を任せる」という余裕のある姿勢を見せている。資本主義の世界ではむしろ少し悠長だと思われる穏やかなパートナーシップを構築できる会社に、トヨタは変わったと筆者は思っている。

 GMやフォルクスワーゲンとの提携とその解消を糧に、提携相手に対して本当に求めるものが分かった今、鈴木会長はトヨタとの提携に意を固め、9月初旬にトヨタの豊田章一郎名誉会長を訪ねた。豊田名誉会長は「協議だけはしてもいいのではないか」と答えたという。そして今月に入ってから豊田社長との会談を経て、今回の発表に至ったということである。

日本の自動車産業再編の大きな一歩かもしれない会見を終え、カメラに向かってほほえむ2人 日本の自動車産業再編の大きな一歩かもしれない会見を終え、カメラに向かってほほえむ2人

 トヨタがスズキを利用しようとしているのではないかと考えた記者から、質疑応答で「今回の提携はトヨタのインドマーケット対策ではないのか」と問われ、豊田社長はこう発言している。

 「自動車産業は国益にかかわる事業です。スズキはインドで長らくパイオニアとして、(インド政府と協調しながら)自動車マーケットを育ててきた実績があります。トヨタが単純にスズキを利用してインドマーケットを手に入れようという考え方は、スズキのこれまでの長年の努力に対して失礼に当たります。トヨタはアライアンスの下手な会社なので、それを自覚しつつ、オープンな提携を目指し、未来のモビリティや、もっと良いクルマ作りを進めていくことを考えています」

 もちろん企業経営は慈善事業ではない。トヨタにしてもスズキの多方面にわたる価値の中で、インドでの強みを評価しているのは間違いない。ただ、それをスズキの都合にお構いなくトヨタのメリットだけで押し切らないという意味で筆者はとらえた。

 先に触れた環境技術や安全装備、自動運転、コネクテッドカー(車両間通信機能)などの基礎技術開発ではデファクトスタンダードの争奪戦が既に始まっている。欧州の基礎技術アライアンスに対して、日本でも昨年、AICE(自動車用内燃機関技術研究組合)が設立され国内の全てのメーカーが加盟している。しかし、こうした外郭団体的な組合機能であらゆる基礎技術の共同開発がこなせるかと言えば、なかなか足並みがそろうとも思えない。そこを解決していくためには緩やかな提携を軸に、業界を再編していくよりほかないのかもしれない。

 トヨタとスズキが今後どのような具体的目標を定めていくかは未定で、これからそれを始めるのだと言う点は鈴木会長も豊田社長も繰り返し強調していた。2人の巨人の脳裏にどんな自動車の未来があるのか、注目していきたい。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセスランキング
  • 本日
  • 週間