9階建ても登場 都心で多層階の家を仕掛けるパナホームその狙いは?(2/4 ページ)

» 2017年08月31日 06時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

都心部の多層階住宅の課題は?

 だが、多層階住宅にはいくつか課題がある。

東京・錦糸町には日本初となる7階建て住宅のモバデルハウスがある 東京・錦糸町には日本初となる7階建て住宅のモバデルハウスがある

 多層階では3階建てが主力であり、全体の約9割を占めるが、3階建ての建設では北側斜線制限がかかることがあるという点だ。特に都内では、それが多くのエリアで適用されている。

 一般的に北側斜線制限は、隣の住居の日当たりを確保するために、真北方向に向けて、建物の形状を斜線で制限するというものだ。東京都で多く用いられている第2種高度斜線では、5メートルの高さから上は、勾配屋根としなくてはならないため、2階部分の一部と3階部分の一部が削られることになる。

 パナホーム 多層階事業部の梅山勝敏事業部長は「都内では第2種高度斜線のために、3階部分がかなり削られることから、住空間確保という観点からのメリットが薄くなり、3階建てをあきらめてしまう例も多かった。住宅メーカーとして、3階部分を大きく取れる提案をしなくてはならないと考えていた」と説明する。

 先に触れた「小規模宅地等の特例」への注目度は高まるものの、都市部の住宅地では厳しい法的規制に阻まれ、二世帯住宅を建てようとしても、3階建て住宅の建築が厳しく、仮に3階建て住宅を建てたとしても、3階部分に十分な空間を確保することは難しいのが実情だ。

 2つ目は、都内の場合には、狭い道路が多く、それらのエリアでは、3階建てを建てたいと考えても、クレーンなどの重機が入らず、工法にも制限がかかるという点である。これも、3階建てをあきらめる理由になっていた。

 さらに、昨今、浮上しているのが、3階部分が削られることで、屋根に設置される太陽光パネルの数にも制限が生まれ、ZEH(ゼッチ=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現が難しくなるという課題だ。ZEHとは、一言でいえば、自宅で作るエネルギーが、使うエネルギーよりも大きい住宅のことを指す。経済産業省では、「外皮の断熱性能などを大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」としている。ここで言う一次エネルギー消費量とは、暖房冷房、換気、給湯、照明にかかわる電力消費だ。

落ち着いた住居空間を演出している(錦糸町のモデルハウス) 落ち着いた住居空間を演出している(錦糸町のモデルハウス)

 太陽光パネルを屋根全体に搭載できる2階建てでは、ZEHを実現しやすいが、北側斜線制限がかかる都内の3階建てでは、太陽光パネルを設置する南側の屋根スペースも小さくなり、ZEHを実現するのは極めて困難だと言われる。政府は20年までに新築戸建ての半分をZEHにしたいと言うが、3階建て住居のZEH率を高めることは大きな課題の1つだ。

 パナホームでも、3階建て住宅におけるZEH率は、現時点では、受注棟数の10%を切っている。「2階建てなどを含めたパナホーム全体では、16年度の受注棟数の17%がZEH。20年には全体で50%を超えたい。特に東京ではZEH率が低く、3階建てでのZEH率向上が重要になる」(平澤氏)というわけだ。

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