ワークライフバランスが、いっこうに進まない理由は3つ難しい(3/3 ページ)

» 2017年09月01日 11時46分 公開
[川口雅裕INSIGHT NOW!]
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最後に、“ワーク”の捉え方だ。

 ワークライフバランスの推進を阻むのは、“ワーク”に対する主として中高年男性の旧い考え方である。中高年男性には、労働によって人格が磨かれ、人として成長できるといったような、労働そのものに意味があるという考え方が根強くある。そして、家庭生活や家事・育児、地域社会における活動、公共的活動などを、労働より下に位置づける。「誰のおかげで、飯が食えていると思っているのか」という物言いが典型的だ。

 労働とは人を成長させながら、カネを生み家族を養い、経済をまわす価値ある活動であって、その他の活動は労働に対するオマケのようなものだといったパラダイムである。その視点からは、ワークとライフのバランスをとることの意味が分からないはずだ。

 そういう人達はだいたい、定年退職すると家事ができない、地域に居場所や役割が見つけられない、友達もいないので生活が辛く寂しくなってしまうから、そうなって初めて労働以外の諸活動にも同じように意味があることが分かるのだが、現役時代にはなかなかこれに気付けない。人間の活動には本来、食い扶持を稼ぐための仕事(ワーク)以外に、衛生的かつ愛情ある生活を営むための活動、知的で文化的な活動、地域や次世代や公共に貢献するための活動など(ライフ)がある。

 長時間労働は、食い扶持を稼ぐための仕事だけに(自社が利益を上げるための活動だけに)人を縛り付けることに他ならない。企業が社会的存在であるなら、従業員が仕事以外の活動に割く時間を担保するのは当然のこととも言えるだろう。ワークライフバランスが本質的な意味で実現するかどうかは、このような労働観を共有できるかどうかにかかっている。(川口雅裕)

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著者プロフィール:

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

 組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)

 1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。

京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)


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