北朝鮮の「生物兵器」は、どれほどの脅威なのか世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)

» 2017年10月26日 07時33分 公開
[山田敏弘ITmedia]

生物兵器が国外で使われる可能性

 専門家らによると、北朝鮮が生物兵器の開発に乗り出すきっかけとなったのは、1950〜1953年の朝鮮戦争のころだったという。当時、北朝鮮の国民の間でコレラやチフス、天然痘などが流行したが、金日成政権はそれらの流行が米国の生物兵器の仕業だと考え、生物兵器を意識するようになったという。そして60年代初頭には、生物化学兵器の開発をスタートさせ、韓国・国防省は、80年代には兵器化に成功したと指摘している。

 そして金正恩政権。金正恩委員長は、北朝鮮のトップに収まった当初から農業改革の重要性を説いてきた。だがその裏には、生物兵器開発がちらついているとの見方も出ていた。15年、金正恩が朝鮮人民軍の陸軍810部隊によって運営されている平壌バイオ産業研究所を訪問する写真が何枚か公表されたが、それらの写真に写った設備から専門家らは、農業分野に使われる設備が、生物兵器を作るのにも利用されている可能性があると分析している。例えば北朝鮮は軍事レベルで応用できるほどの炭疽菌を作ることが可能だという。

 生物兵器が危険なのは確かで、そういう兵器を北朝鮮のような国が所有しているという話は怖い。とはいえ、特に気になるのは、実際にそれが国外で使われることが考えられるのかどうかだ。

 ベルファーセンターのリポートによれば、北朝鮮が生物兵器を使うとすれば、敵国と戦闘に突入する前か、もしくは戦闘のはじめになるという。軍事衝突の早い段階で、相手国の社会を混乱させ、パニックを引き起こすことが目的だ。確かに、日本なら自衛隊も動員され、多くの人員がそちらに割かれてしまう可能性もある。その間に、別の軍事攻撃を受ければ対応はままならないかもしれない。

 また同リポートは、こう指摘している。「生物兵器をばらまくのに、北朝鮮はミサイルやドローン、飛行機、噴射機、または感染した人間を使う可能性が高い」とし、感染した人間が「自爆攻撃」をすることについて、北朝鮮には20万人の特殊部隊員がいるために人員的にも十分に考えられるという。特殊部隊の兵士たちは、国のためなら自爆攻撃も厭わない兵士たちだ、ということらしい。

 都市部に感染者を送り込む、水道施設などに病原体を放り込む、というシナリオはあり得る。人が密集する都市部に自爆部隊が送り込まれれば、甚大な被害をもたらすだろう。ミサイルや化学兵器とは違い、問題を察知する前にどんどん感染が広がってしまう可能性がある。

生物兵器は甚大な被害をもたらす可能性が高い(写真と本文は関係ありません)

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