日馬富士の暴行は、他のモンゴル人力士たちのイメージも悪化させることへとつながりかねない。実際、酒席には横綱、白鵬も同席していたことから「なぜ止められなかったのか」と同席者として思わぬバッシングを浴びてしまっている。このように余計な弊害まで生む要因へとつながってしまっているのだ。もともと白鵬はメディアや一部ファンから何かと「ヒール扱い」される一面もあるだけに心配される傾向だ。
ただ、この問題には余りにも不可解な点が多過ぎる。最大の謎は貴ノ岩の師匠で巡業部長を務める貴乃花親方が10月下旬に警察側へ被害届を提出したにもかかわらず、11月14日まで協会側に報告していなかったことだ。11月2日の時点で被害届提出によって捜査に動き出していた鳥取県警から連絡を受けた協会執行部は少なくとも事態を薄っすらと把握はしていた。
翌日の3日に調査に動き出した同執行部は日馬富士の伊勢ケ浜親方、そして貴乃花親方に電話でヒアリングも行っていた。ところが、ここで両親方はそろって「分からない」と答えていたという。この時点で貴乃花親方は被害届を提出していたにもかかわらず、なぜかダンマリを決め込んでいたのだ。
暴行を受け、被害届を提出した直後の貴ノ岩、そして貴乃花親方の言動にも「?」が浮かぶ。暴行から1週間後の今月2日に貴ノ岩と貴乃花親方は貴乃花部屋が九州場所の宿舎を構える福岡県田川市の二場公人市長を表敬訪問していた。ここで貴ノ岩は「(勝ち星を)2けた目指してがんばります」と口にし、九州場所出場へ強い意欲を見せていたのは記憶に新しいところだ。
暴行を受けたとされる10月25日の翌日、26日の鳥取巡業で貴ノ岩は土俵に上がり、勢との取組で勝利していた。「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」で「全治は2週間程度と考えられる」ほどの重傷を負っていたにもかかわらず、強行出場で勝ち星をつかんだ。多くの有識者からは「髄液漏の疑いがある容態のまま日常生活を普通に過ごせるとは考えづらい。ましてや取組で土俵に上がり、相手の力士と体をぶつけ合うのだから頭にもすさまじい衝撃が走る。ぶつかり稽古もこなすなんてまず不可能」との指摘も聞こえて来ている。
ところが、これとは逆に「いや、暴行から2週間近く、稽古や巡業に参加したことで頭部に衝撃を受け続けて症状が悪化したことも考えられる。実際に頭部に衝撃を受けてから自覚症状がないまま、2〜3週間後に違和感や変調を訴えて病院に駆け込むケースもある」と解説する専門医の存在もいて、どちらが正しいかはここで明確に断じることはできない。ただし「疑問符」が付けられていることは間違いなく、ここは警察の捜査の見解を見守るしかあるまい。
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