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野村不動産の過労死事件から考える、「裁量労働制」の“光と闇”“ブラック企業アナリスト”が斬る労働問題(1/3 ページ)

» 2018年05月02日 06時15分 公開
[新田龍ITmedia]

 「裁量労働制は“定額働かせ放題”の制度だ」「裁量労働制は、残業代の支払いをストップさせる悪質な制度だ」――最近、筆者の周囲でこんな批判を耳にするようになった。

 裁量労働制とは、「実労働時間」ではなく「使用者との協定で定めた一定時間」を労働時間と見なす制度を指す。労働時間に応じた残業代は発生しない一方、労働者は高い裁量権をもって仕事ができる点が特徴だ。労働基準法では、弁護士、税理士、編集者、ソフトウェア制作などが適用対象として定められている。

 日本政府は当初、この裁量労働制の適用範囲の拡大を目指していたが、不祥事が相次いで発覚。裁量労働制の拡大は法案から全面削除された。冒頭で述べたようなマイナスイメージも定着している。

photo 野村不動産への「特別指導」を巡る問題が批判のきっかけに

なぜマイナスイメージが定着?

 事の発端は2017年12月、裁量労働制を対象外の社員に違法適用していた野村不動産が東京労働局から「特別指導」を受けたことだ。同社は約600人の社員に、本来は企画職の社員などが対象の「企画業務型裁量労働制」を適用していたが、実際は対象社員の多くが営業活動など異なる業務を担っていた。

 ただ当時、この問題を指導した労働局は国会で「裁量労働制の違法適用に関する指導実績を上げた」と評価された。マスメディアも「企業の不正を労働局が摘発した」と大きく取り上げた。

 しかし3月になって、野村不動産で裁量労働制が違法適用されていた男性社員が16年9月に過労自殺していたことが発覚。また17年12月には、1カ月当たり最大180時間という長時間労働があり、それを原因とする労災認定があったことも判明した。

 だが、労働局側の当初の発表は「過労自殺」や「労災認定」があった事実に触れていなかった。そのため、「裁量労働制の弊害として起きた不都合な事実は隠して、特別指導だけを公表するのはおかしい」と野党などから批判を集めることとなった。

 時を同じくして、厚生労働省が「裁量労働制を適用した労働者は、一般的な労働者よりも労働時間が短い」とする“不適切なデータ”を資料に使用していたことも明らかになったため、疑惑の目はさらに強まった。働き方改革関連法案の早期成立を目指すため、批判の根拠となるような事象は伏せておきたいという思惑があったのではないか――というわけだ。

photo 厚生労働省では“不適切なデータ”問題も発生

 さらに、記者会見で「特別指導の裏には、過労自殺の隠蔽(いんぺい)があったのでは?」と記者会見で問い詰められた東京労働局長(当時)の勝田智明氏が「皆さんの会社に行って、是正勧告してもいい」などと発言。報道陣と世間の反感を買い、更迭されるという出来事もあった。

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