では、いったいなぜ日本は長いこと、「オレはそんなこと言っていないおじさん」が幅をきかせるような世の中が続いたのか。
いろいろなご意見があるだろうが、個人的には、日本人の多くが「権限」と「責任」を履き違えたことが大きな原因のひとつではないかと思っている。
「社畜」なんて言葉があるように、大多数の日本人が、組織におけるガチガチの歯車だということに異論を挟む者はいないだろう。
若くして歯車になって、滅私奉公で何十年も過ごして出世階段を駆け上がれば、大きな歯車にもなれる。が、大きくても小さくても歯車は歯車。つまり、組織内で「ドン」だとか「最高権力者」だとか呼ばれるようになったところで、しょせんは権限が肥大化しているだけの状態であって、その組織の進むべき道を自分の判断で決められる「責任者」になっているわけではないのだ。
あまりに身もフタもないもの言いに不快になる組織人の方も少なくないと思うが、アメフト部内では神のように恐れられた、内田前監督の立ち振る舞いがすべてを物語っている。
「あのタックルはオレがやらせた! 周りに聞かれたらそう言っておけ!」
そんな風に男らしくたんかをきった内田前監督が、なぜ人が変わったように、「信じてもらえないかもしれませんが、私は指示してないんですよ」と弱々しい釈明に終始しなければいけなくなったのかというと、彼が日大という巨大組織の「責任者」でないことに尽きる。
「人事を掌握する常務理事」「ドンの片腕」など、勇ましい評価はいくつもあるが、そのパワーはあくまで日大という「ムラ」の内部に限定される。外の社会、そして大学として顔色をうかがわなくてはいけない文部科学省に対して、「そうです、私が相手にケガをさせてこいと命令した、反則おじさんです」なんて傷害の教唆を軽々しく告白して全責任を負うほどのパワーは持ち合わせていないのだ。
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