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日本以上のブラック労働でも悲壮感はない、中国のある事情72時間連続で働け(1/3 ページ)

» 2018年06月07日 06時30分 公開
[高口康太ITmedia]

苦悩なくして得られる成功など無く、PPTのみに頼って得られる富も無く、また天から降ってくるハイテクもない。卓越したものを追及するためには、無数の苦しく思索に耽る深夜を過ごし、72時間連続で働く執着心が必要であり、また真相を大声で言う勇気が必要だ。

(中略)10年間、DJIは業界のトップに立ち、グローバルな空撮の新時代を切り開き、世界を改造する無限の可能性を示してきた。我々の経歴が証明するのは、駆け出しの若者が他者に迎合せず、日和見的に投機せず、ただまじめに物事を行えば、必ず成功できる、ということだ。

フランク・ワン

*訳はASEIITO.NETより引用。

 世界一のドローン企業、DJIの創業者フランク・ワンの言葉だ。1980年代末の日本では、「24時間戦えますか」をキャッチフレーズとした栄養ドリンク「リゲイン」のCMがヒットしたが、その3倍の72時間である。真摯(しんし)かつ猛烈に働けば必ず成功するという信念は、かつての日本を彷彿とさせる。DJIだけではない。「工作狂」(中国語でワーカホリックの意)は決して悪い意味ではなく、できるビジネスマンの必須条件のように扱われている。

広東省深セン市にある、DJIが入居するスカイワース・ビル 広東省深セン市にある、DJIが入居するスカイワース・ビル

 がむしゃら精神が称賛されている中国では、日本の働き方改革は理解できないものなのだろうか? 中国メディアにも「労働方式改革」(働き方改革の中国語訳)に関する記事は散見されるが、「安倍政権の支持率低下につながるのでは」といった関心が主で、中国の労働環境を省みるような記事は見られない。

 がむしゃら労働は途上国ゆえの現象なのだろうか? 本稿では中国人はどのように働いているのか、そしてがむしゃらな長時間労働があってもなぜそこに悲壮感がないのかを考えてみたい。

「中国人は仕事をさぼる」は遠い過去の話

 中国といえば、少し前までは「仕事をさぼる人ばかり」の世界だった。社会主義国の常だ。今でもそうした人はいる。80年代、90年代に中国で働いていた元日本企業駐在員に話を聞くと、「すぐにさぼるから、どうやって働かせるかに知恵をしぼった」と口をそろえる。トイレに行く回数まで制限する。遅刻すれば罰金、皆勤賞ならば賞金といった労働管理制度を取り入れて、ようやくまじめに働かせることができたのだ、と。

 それが今では180度転換している。「中国人は勤勉に働くから、高度成長を達成した」。これが現在の中国の自画像だ。日本駐在の中国人からは「日本人は働かないですね。メールを送ってもなかなか返事が来ません」とあきれられることもしばしば。30年前と完全に立場が入れ替わっている。

 中国の変化、その背景にあるのは民間企業の拡大だろう。都市部のオフィスワーカーが増え中産層を形成していくが、彼らこそががむしゃら労働の担い手だ。特に中国民間経済をリードするIT企業の長時間労働は有名だ。

 「996工作制」という言葉がある。午前9時から午後9時まで、週に6日間働くという意味だ。2016年9月、クラシファイドサイトの「58同城」(58.com)が全社員にこの長時間労働を言い渡したとのリーク情報が広がった。残業代もつかない、違法労働ではないかとの告発だ。58同城は否定したが、この後、996工作制は中国IT企業の仕事ぶりを示す言葉として定着していく。

北京市のインキュベーション施設「タススター」。中国のビジネスパーソンは夜遅くまで働くことが“常識”に 北京市のインキュベーション施設「タススター」。中国のビジネスパーソンは夜遅くまで働くことが“常識”に
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