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“リーマンショック解雇”を機にフレンチの道へ 元外資金融マンが描く「第3の人生」連載 熱きシニアたちの「転機」(2/5 ページ)

» 2018年07月19日 07時00分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

激務が続き「自律神経失調症」に 告げられた“戦力外通告”

 実は、9年に及ぶゴールドマンでの激務は、知らず知らずのうちに両角さんの健康を蝕(むしば)んでいた。体調不良を自覚し医者に行ったら、自律神経失調症と診断。転職を決め、同業のMorgan Stanley Asset Management(モルガン・スタンレー・アセット・マネジメント投信)に移った。

phot 2008年に撮影したモルガン・スタンレー時代の両角さん

 だが、不運は重なるもの。転職して半年後の08年9月、リーマン・ショックが起き、2カ月後、解雇を言い渡された。結果的に、これが大きな転機となった。

 超エリート金融マンが44歳で人生初の解雇。「ある程度覚悟はしていたが、正直、相当ショックだった。取りあえず知り合いのヘッドハンター全員に連絡を取ったが、時期が時期だけに、仕事はまったく見つからなかった」と両角さんは当時を思い出して語る。

 悩んだ末、起業の道を選んだ。レストラン業を選んだのは、昔から食べ歩きが好きだったからだ。ゴールドマン時代に、顧客を接待するためにワインを勉強し、ワインやチーズの資格もとった。金融の知識を生かし、知人がレストランを開業する際に事業計画書作りを手伝ったことも何度かあった。

phot ワインにはこだわり、他店ではお目にかかれないようなレアものも飲める

「もし1年後に死ぬと分かったら、どっちを選びますか」

 それでもしばらくは金融業界への未練を断ち切れなかった。ある日、思い切って、一足先に起業したゴールドマン時代の10歳以上年下の後輩に相談した。すると、その後輩はこう言ったという。「両角さん、もし1年後に死ぬと分かったら、どっちを選びますか」

 「その一言で迷いが吹っ切れた」という両角さんは、起業に向けて走り始めた。現場の経験を積むため、常連客としてVIP扱いを受けていたレストランに頼み込み、週2日、2カ月間、「20歳も年下に怒られながら」接客の訓練を積んだ。自治体から融資を受けるために西麻布のある港区に事業計画書を持っていったら、担当者から「私の勉強のためにもう1部いただけませんかとお願いされた」ほど、事業計画書も完璧だった。

 09年12月、満を持してビストロアンバロンを開業。しかし、人生、そんなに甘くはなかった。

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