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» 2018年08月24日 07時30分 公開

「役所の非難」では何も始まらない:「障害者雇用の水増し」で露呈する“法定雇用率制度の限界” (3/5)

[田中圭太郎,ITmedia]

雇用率未達成の企業名を公表する弊害

――その一方で、国は企業に法定雇用率を達成するよう指導しているわけですよね。

 国は企業に対し、法定雇用率を順守させるためのインセンティブを与えている。法定雇用率未達成の企業から納付金を徴収し、それを達成企業に調整金として渡す「雇用納付金制度」だ。さらに未達成の状態が続く企業には、厚労省から指導が入り、それでも措置が講じられない場合は企業名を公表する。

――大企業にとっては、名前を公表されることは大変なイメージダウンでしょう。

 一番嫌がることだろう。とはいえ、企業も障害者の雇用を本業で生み出すのは難しいので、国は特例措置を設けてきた。その1つが、「特例子会社」という制度だ。清掃やシュレッダーなどの単純作業を集約した子会社で障害者を雇用すれば、企業グループ全体として障害者雇用率にカウントできる。2002年に制度の運用が始まり、特例子会社も障害者の雇用者数も大幅に増えた。しかし、いまではこの方法も限界にきている。それは特例子会社向けに単純作業を切り出すにも限度があるためだ。

補助金目当ての「障害者ビジネス」も横行

――限界にきているということは、役所の水増しと同じようなことが起きる可能性があるのですか。

 現実にあるかどうかは別にして、やろうと思えばできるのが、「就労継続支援A型事業所(A型事業所)」を用いた“架空発注”だろう。A型事業所という、障害者を雇用する子会社を悪用して架空発注することで、実際には何も仕事をしていない障害者に給与を払ったことにするという「補助金ビジネス」だ。

phot 架空発注の図(中島教授の提供資料より)。制度設計の不備を突き、障害者を食い物にする「補助金ビジネス」だ

 まず、X株式会社が、Y株式会社というA型事業所をつくる。A型事業所の役割は、障害者と雇用契約を結んだ上で、仕事によって得られた収入から障害者に給与を支払うこととなっている。そして、A型事業所の職員が、障害者の仕事を支援する見返りとして、行政から給付金、つまり報酬を「自立支援給付費」として受け取る。ただし、厚労省はこの行政からの報酬を障害者の給与に充当させることを禁じているのだ。

 ここで、Y株式会社は、障害者20人に1日4時間労働で月20日分の給与を136万円支払うとしよう。このとき、障害者の労働量に応じて行政から受け取る報酬は236万円になる。その他に経費が40万円かかるとしても、単純に60万円の利益が出る計算だ。

 しかし、行政からの給付金、つまり報酬からは給与が払えないので、親会社のX株式会社がY株式会社に140万円相当の架空発注をしてそこから障害者給与を払い、200万円を配当として受け取る形にすれば、障害者は何も仕事をしていなくても、結果的に給付金から利益が得られるというわけだ。

phot 厚労省は自立支援給付を、賃金には充ててはならないとしている(中島教授の提供資料より)

――これは違法行為ではないのですか。

 違法行為ではないし、形だけでも障害者が何らかの作業をしていれば、「補助金目当て」だと見抜くことはできないだろう。さらに、厚労省は何らオープンな議論を経ずして、こうしたA型事業所に通う障害者の雇用率への算定を黙認している。法定雇用率を上げていけば、企業が苦し紛れにこのような策を講じても不思議ではない。

 だが、これが障害者雇用率制度の目指す姿なのだろうか。これ以上法定雇用率を上げて、未達成の企業にペナルティーを課す政策を続けても、企業は抜け穴を探すだけだ。

phot 早急な解決策が望まれる(中島教授の提供資料より)

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