「カツオは将来、社長になる」 サザエさん好きの慶大名誉教授と考える、磯野家の未来「波平と出川哲朗さんは同い年」(4/5 ページ)

» 2018年09月05日 07時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

「サザエさん」の世界と現代は、何が違うのか

――さて、今回の“サザエさん本”のテーマでもある「当時と現代の違い」についても聞かせてください。27歳の私(記者)は、作品の舞台である終戦直後から1970年代の日本については、資料や教科書から得た知識しかありません。岩松先生は、当時と現在の日本は、どんな点が異なっているとお考えですか。

岩松先生: 敗戦からオイルショックまでの復興期・高度経済成長期の日本には、「もっと豊かになれる」という活気がありました。個々人の結び付きも強く、ご近所づきあいがあり、家に鍵を掛けずに遊びにいくことも普通でした。いまは人々のつながりがバラバラになり、格差が広がっていると感じます。

外食は特別な機会だけ

 食事などの消費文化も大きく変わりました。「サザエさん」の時代は、食事は自分の家で作って食べるのが当たり前。外で食べるのは特別な機会に限られていました。

 作品中では、一家がお茶の間でちゃぶ台を囲んで食事する様子がおなじみで、外食はクリスマスや年末など、ごく一部の場面のみです。

 外食のシーンでは、近所のおばあさんから「お出掛けですか?」と聞かれ、カツオ・ワカメが「清水の舞台から飛び降りるつもりで(思い切って)ホテルで食事をしてきます!」などと答える一コマもあります。当時は外食がそれほど珍しいことだったのです。

photo サザエさんの時代と現代は何が違う?(=フジテレビの公式Webサイトより)

――当時は外食産業が発展していなかったことも大きいかと思いますが、これ以外に外食が特別な機会に限られていた背景は何があったのでしょうか?

岩松先生: 戦前から続く「女性は家を守り、家事をする」という文化が色濃く残っていたからです。磯野家が住んでいる設定の、東京・世田谷区などの都会の住宅地では専業主婦が当たり前で、働いている女性はほとんどいませんでした。

 磯野家の玄関に鍵が掛かっておらず、カツオやワカメの友達が気軽に遊びに来るのは、「家に主婦(サザエやフネ)がいつもいる」という共通認識があったからなのです。

「御用聞き」が来ていた

――当時は小売業界も発展途上でした。サザエさんの世界にはコンビニなどもなさそうですが、磯野家はどこで買い物をしているのでしょうか。

岩松先生: 当時は酒屋、八百屋、魚屋などの個人商店がたくさんあり、そこで買い物をしていました。店員が各家庭を回って欲しいものを聞き、頼まれた商品を届ける「御用聞き」という文化もありました。

 御用聞きは磯野家にも、よく注文を取りに来ています。ですが、女性が必ず家にいることを前提としたビジネスなので、いまの世界では女性の社会進出とともに廃れていきました。

 また当時は、悪質な訪問販売「押し売り」も横行していました。ゴムひも、ほうき、スリッパといったガラクタを10円台で売りつける商法で、前科のあるならず者などが行っていました。作品中には、夏休みの終わりに磯野家にやってきた押し売りがカツオとワカメに、毎日の天気を記録する宿題を1日当たり2円で写させるシーンもあります。

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