昨今、芸能人の不倫報道と謝罪会見を目にする機会が多いです。その結果、引退や長期活動自粛という措置が取られるケースもあります。もし、自社の社員が同じようなトラブルを起こしたら、会社はどのような対処をすべきでしょうか。杜若(かきつばた)経営法律事務所の弁護士に聞きました。
社内恋愛にしても、ダブル不倫にしても、業務上の問題ではなく、あくまで私生活上の問題です。会社の就業規則等のルールは、会社で業務をおこなううえでの規律であり、私生活上のあらゆる行為まで規律するものではありません。従って、ダブル不倫が発覚したからといって直ちに解雇が認められるわけではないのです。
もっとも、私生活上の問題でも、それにより会社の信用が損われたり、会社の秩序に悪影響を与えた場合は、懲戒処分を検討することは可能です。
例えば、鉄道会社の運転手が休日に痴漢をしたり、運送業のドライバーが休日に飲酒運転で事故を起こしたりした場合などは、私生活での出来事だからといって懲戒処分を免れるというわけにはいかないでしょう。
ダブル不倫の場合も、例えば、不倫をされた配偶者が会社に怒鳴り込んできたため、会社はその対応に追われ、本来業務が滞るなど会社の業務運営に支障が生じたのであれば、支障が生じたことについて懲戒処分を検討することは可能といえます(ただし懲戒解雇は処分として厳しいので避けるべきです)。
一つ例を挙げて解説しましょう。
ある会社で、上司(既婚男性)と部下(既婚女性)のダブル不倫がばれてしまい、部下(女)の夫が会社に乗り込んできました。夫は、「社長を出せ!」「どうしてくれるんだ!」「誠意を見せろ!」「慰謝料を払え!」などと興奮状態でまくしたて、ほかの社員は仕事にならない状況です……。
こんな時、会社はどう対応すべきだと思いますか。
私生活上の問題であるダブル不倫について、会社は積極的に介入すべき場面ではありません。ただそうはいっても、社内の従業員同士の問題であり、現に怒鳴り込んで社内が騒然としている状況の解消を図る必要があります。私生活の問題だから会社は関係ないといって相手にしないよりも、一応話は聞いて、「最終的には当事者で解決する問題ではあるが、会社も協力できることがあればできる範囲で協力しますよ」というスタンスで対応するのがよいでしょう。
慰謝料を払え、誠意を見せろといわれても、会社が直ちに責任を負うわけではありませんので、勢いに押されて会社の責任を認めるような言動はせず、まずは状況の確認につとめましょう。
次のようなケースについては注意が必要です。過去の恋愛関係や不倫関係が解消されたにもかかわらず、当事者の一方が関係の再開を迫ったり、付きまとい行為をするなどしている場合には、私生活の問題ではなく、セクハラの問題です。
このような場合、会社が当事者の一方から相談を受けていたにもかかわらず、会社が適切な対応をしなかった場合には、会社の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。
かつて、交際関係があった当事者同士で、その後、交際関係が解消されたにもかかわらず、当事者の一方が、「突然別れる理由が分からない」「明確な説明がない」などとして、当該部署に頻繁にやってきて話しかけたり、近くに居座ったり、自宅を直接訪ねて大声を上げるなどの付きまとい行為をした事案(名古屋高裁平成28年7月20日判決)がありました。
これに対して裁判所は、「会社は、自ら雇用する労働者に対する雇用契約上の安全配慮義務を負担している」として、就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じたり、雇用管理上必要な措置を講ずる事業主としての措置義務があると判断。会社がセクハラ行為の申し出に対して、真摯(しんし)に向き合わず、一切の事実確認も行わず、予防措置等を講じなかったことについて安全配慮義務違反があったと認定しました。
このように、過去に交際の事実があったとしても、セクハラ問題に発展する可能性があります。そのため、会社は、当事者から相談があったときは、事実関係をきちんと確認し、その上で、当事者間で解決すべき私生活上の交際の問題なのか、セクハラの問題であるのかをきちんと見極め、適切に対応することが求められます。
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