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残業時間の上限は本当に720時間なのか?分かりやすい制度に見直しを(1/2 ページ)

» 2018年10月11日 06時15分 公開
[金明中ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

 今年6月末、参院本会議で「働き方改革関連法案」(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)が可決・成立した。

 働き方改革関連法案は、(1)労働基準法、(2)労働安全衛生法、(3)労働時間等の設定の改善に関する特別措置法、(4)じん肺法、(5)雇用対策法、(6)労働契約法、(7)短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律、(8)労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律という8本の法律改正によって構成されている。

 働き方改革関連法案の中で、特に注目を浴びているのは長時間労働を是正するための措置である「残業時間の上限規制」だろう。今回の残業時間の上限規制は、労働基準法が制定されてから初めて上限規制が罰則付きで定められた。今までは労働基準法36条に基づく労使協定(サブロク協定)に「特別条項」を付けることで事実上、無制限に残業をさせることができた。

今回の働き方改革関連法案において残業時間は制限されることに 今回の働き方改革関連法案において残業時間は制限されることに(写真提供:ゲッティイメージズ)

 しかしながら、今回の改革により残業時間は制限されることになった。

 残業時間は、原則「月45時間、年360時間」までとし、臨時的な場合の月単位の上限は、1カ月で100時間未満(休日労働を含む)、2〜6カ月の平均で80時間以内(休日労働を含む)で、最長でも年720時間に抑えている。違反した企業や上司に対しては30万円以下の罰金か6カ月以下の懲役が科される。今回の残業時間の上限規制により、長時間労働はある程度解消されると期待されるものの、その内容を見ると、1つ疑問点がある。

 それは、1カ月で100時間未満と2〜6カ月の平均で80時間以内には「休日労働を含む」ことがきちんと明記されているのに、年720時間には「休日労働を含む」という内容が入っていないことである。なぜ、年720時間には「休日労働を含む」という内容が含まれていないだろうか。残業時間の上限規制に対する企業側の負担あるいは反発を恐れた措置かは分からないものの、このままだと混沌をもたらす恐れがある。

 つまり、現在の法律のままだと、既存の労働基準法のように「特別条項」を付けて労使間に協定を締結すると、年720時間以上も残業をさせることが可能ではないかと思われる。人によっては次のような質問が出ることもあるだろう。

 Aさん:「1カ月100時間未満(休日労働を含む)」を適用すると、100時間(休日労働を含む)×12カ月=1200時間になるので、年間残業時間の上限は1200時間になりますか? 「2〜6カ月の平均で80時間以内(休日労働を含む)という基準が同時に適用されると、1200時間にはならないと思いますが、実際はどうでしょうか?

 Bさん:「2〜6カ月の平均で80時間以内(休日労働を含む)」を適用すると、6カ月の平均残業時間は80時間以内(休日労働を含む)であるので、6カ月の総残業時間は480時間(6カ月×80 時間)になると思います。基準を「2〜6カ月の平均で80時間以内(休日労働を含む)」にしたのは、1年間にこの基準が2回適用できることでしょうか? もし、そうだとすると1年間の残業時間の上限は960時間(480時間×2)になりますか?

 Cさん:「年720時間」という基準には休日労働が含まれていませんが、労使間で協定を結べば休日に働くことにより、年720時間以上も働くことができるのではないでしょうか? 企業は、労働基準法35条1項の「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」だけを守れば休日を活用し、年720時間以上の残業をさせることは可能ではないでしょうか?

 以上のように、厚生労働省が発表した残業時間の上限は、現在のところ基準が明確でないので、多様な形で解釈することが可能である。そして、期間ごとに異なる基準が設定されているので、どの基準に合わせて残業時間の上限を設定すれば良いかがよく分からない。

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