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残業時間の上限は本当に720時間なのか?分かりやすい制度に見直しを(2/2 ページ)

» 2018年10月11日 06時15分 公開
[金明中ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所
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抜け穴は多い

 朝日新聞は今年6月8日の朝刊(※1)で「「年720時間」は休日労働を含まない上限だ。一方で、特に忙しい時期に認められる「2〜6カ月平均で月80時間」の特例は、休日労働を含んだ基準になっている。この残業を12カ月繰り返し、「80時間×12カ月=年960時間」の残業ができるのだ」と年間残業時間は720時間ではなく960時間だと報道し、残業時間の上限に関する問題点を指摘している。朝日新聞の見解は上記のBさんの考えと同じ結果になっている。

 残業時間の上限規制は、企業規模や業種により施行時期と残業時間の上限が異なっていることも制度が理解しづらい1つの原因になっている。つまり、残業時間の上限規制は大企業の場合は2019年4月から施行されることに比べて、中小企業は1年遅い20年4月から施行される。

 また、自動車運転業務、建設業、医師への上限規制は5年間猶予され24年度から適用され、自動車運転業務の場合は、年960時間と一般業務の年720時間に比べて240時間も多く上限を設定している。さらに、高度プロフェッショナル制度が適用される労働者や新技術・新商品の研究開発業務は上限規制が適用されない。

 今回、厚生労働省が発表した残業時間の上限は本当に複雑な仕組みになっており、抜け穴がたくさんあるように見える。このままでは長時間労働の解消の実現は、困難であると言わざるを得ないのではないだろうか。労働基準法第36条の問題(※2)が再び発生しないように、残業時間の上限規制に関する基準を明確し、より分かりやすい制度に見直す必要があるだろう。

※1 朝日新聞 2018年6月8日朝刊「休日含め「残業960時間」上限720時間に抜け穴、議論されず」から引用。

※2 既存の日本の労働基準法第36条、いわゆるサブロク協定では「労使協定をし、行政官庁に届け出た場合においては、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」と労働基準監督署長に届け出た場合は、その協定内の範囲内で残業や休日労働を許可していた。さらに、労働基準法は、残業時間の上限を「月45時間」に制限しているものの、「臨時的で、特別な事情がある場合には、残業時間の上限を超えて働くことができる」という「特別条項」を付けて協定を締結することも可能であり、この場合は残業時間の上限なしで、無制限に労働者に残業をさせることができるようになっていた。その結果、長時間労働が解消されず、精神障害等の労災請求件数が毎年増加している傾向である。

著者プロフィール

金明中(きむ みょんじゅん)

ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

研究・専門分野:社会保障論、労働経済学、日・韓社会保障政策比較分析


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