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» 2018年10月29日 08時00分 公開

『Dr.スランプ』で「マシリト」と呼ばれた男・鳥嶋和彦の仕事哲学【中編】:『ジャンプ』伝説の編集長は『ドラゴンボール』をいかにして生み出したのか (3/6)

[今野大一,ITmedia]

人の話を素直に聞ける作家は伸びる

――鳥嶋さんは以前メディアのインタビューの中で、作家は「原稿が早い作家」と「原稿が遅い作家」の2種類に分けられると述べられていました。両者にはどのような違いがあるのですか。

 原稿が遅い作家は周りの人も含めて全てを不幸にするんですよね。作家は追い詰められるし、関わる編集者はデートもできないし、家族サービスもできなくなる。印刷所も待たなきゃいけなくなるのです。早く到着した原稿との入れ替えで、副編集長が決めた漫画の台割(編集部注:だいわり。雑誌の制作で、どのページにどんな内容を入れるかを示した設計図)も変更せざるを得なくなります。

 原稿が早いか遅いかを決めるのは結局「諦められるかどうか」なのです。週刊誌なら面白くても1週間ですし、つまらなくても1週間です。だから「どこで決断するか」が重要なんですね。作家が絵コンテをどれだけ早く描けるか。面白くしようと粘ると、1週間という期間をはみ出してしまうのです。

 でも、読者はその週の回がつまらなかったら読み飛ばしますが、もし次の週が面白ければ読んでくれるんですよ。例えば『ジャンプ』でも(『ジャンプ』の目次ページを広げながら)、この号でどれが面白かったかを毎回覚えていると思いますか? 

 読者アンケートでは面白い漫画を3つ選びますが、全部の漫画を読んで点数を付けて公平に評価するわけではないのです。好きなもの、あるいは印象に残っているものを3つ、という感じで選びますよね。だから漫画は、ストーリーがイマイチでも、最低限15〜19ページの中で目に付くコマさえあれば読み続けてくれます。目を引くカットをきちんと押さえておけばいいのです。

phot 「全部の漫画を読んで点数を付けるわけではないので、目に付くコマさえあれば読み続けてくれる」と語る(『週刊少年ジャンプ』目次)

――確かに全部の漫画を読む子どもはいないですね。

 【前編】でも言いましたが(関連記事を参照)、新入社員時代に小学館の資料室でいろいろな漫画を読みました。なぜこのコマがここにあって、このアングルなのかということを分析しながら19ぺージの漫画を50回以上読んだのです。その結果、漫画には2種類あると分かりました。読みやすい漫画と読みにくい漫画です。

 読みにくい漫画は手が止まるんです。一方、読みやすい漫画だと思ったのが、ちばてつやさんの作品でした。痛感したのは「漫画はコマ割りでできている」ということです。コマ割りこそが漫画の文法なのです。その方法論を鳥山さん含め新人漫画家に教えると、漫画がどんどん上達していきました。漫画の文法を説明できるようになって初めて、感想だけではない、きちんとした漫画の打ち合わせができるようになったのです。

 僕は良く新人編集者に対して、「面白いか面白くないかという感想を言うだけなら小学生の方が確かだよ」と伝えます。なぜつまらないのか、どうすれば面白くなるのか、その作家が持っている「現在の漫画力」はどの辺にあるのかを分析して鍛えていかないと、編集者の仕事とはいえないのです。

phot

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