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“あ・うん”の呼吸はロジカルシンキングを超えるのか? 日米企業の生産性幸せと生産性を考える(2/3 ページ)

» 2018年11月05日 08時00分 公開
[野口正明ITmedia]

日本企業の生産性の根源は「暗黙知」?

 次のモデルでは、日本企業がその特性に根ざして生産性を高めるための可能性を示そうと思います。

 私は、数年前に化学系大手企業の一部門としてB2Bビジネスを手掛ける事業部を支援しました。彼らの命題は、成熟した市場で価格競争もあって低下傾向にある利益率を抜本的に改革するというものでした。

 いわゆる合理的な手法はほぼ検討し尽くした感もある中、数人で組まれた選抜チームとともに、ワークショップスタイルで、既存の延長線上にはない解を求めて大海に漕ぎ出しました。

 そこで着目したのが、数字には現れない、目には見えにくい暗黙的な要素です。チームメンバーそれぞれが誇れる過去の仕事を「自慢話」として出してもらったところ、そこにはどうも共通する何かが存在するようでした。

 その共通する何かとは「達成感」という言葉でした。合理的に分析するには縁遠い主観的な概念です。しかし、チームメンバーはその言葉を手掛かりに、顧客にも協力してもらいながら、自分たちの「達成感とは何か」を突き詰めていったのです。

達成感とは何か? 達成感とは何か?

 彼らの「達成感」の源は、顧客の先にいる「顧客の顧客」やエンドユーザーからのフィードバック情報から得た洞察を提案に生かすことでした。その後、彼らはこのプロセスから従来とは異なる営業モデルを発見するに至り、一部の顧客プロジェクトでは圧倒的な成果につなげることもできました。

 ここで私が支援したことは、彼らの深く潜る「暗黙知」を炙り出し、言葉(形式知)にしていく作業です。そのプロセスは大まかに以下のような流れです。

 (1)一人一人のチームメンバーが、先入観やタブーを置かずに、それぞれの想いや問題意識を素直に聴き合い、受け入れ合う関係性を築く。

 (2)テーマをこれだと決めつけることなく、メンバーが何となく大事そうな気がすることを、安易に分析してしまわず、曖昧なまま共有する。

 (3)対象がはっきりと捉えきれないという渾沌状態に耐えながら、現場における経験や感覚を大事にして、チームで丁寧に交換し合う。

 (4)ほのかに見えてくる新たな可能性の芽を見逃さず、イメージの共有に言葉を尽くし、仮説をストーリーにしてみる。

 (5)仮説の検証に向けて、迷いなく試行錯誤を繰り返し、そのプロセスをふり返りながら、チームでの気付きを得る。

 目に見えるものに特化する米国企業では決して手を出さないやり方でしょう。しかし、日本企業の「暗黙知」を大事にしながら、「形式知」に転換し、生産性の質を高めるこうした方法は、スコラ・コンサルトによる支援の本質と言えます。

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