中国発「遺伝子操作ベビー」の衝撃 “禁じ手”を使った人類の未来世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2018年12月06日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

ゲノム編集に対する厳しい批判

 米国で2015年、「ヒトの遺伝子編集技術に関する国際サミット」が3日間の日程で行われ、20カ国以上から約500人の科学者や倫理学者などが集結した。参加人数だけでその注目度の高さが分かるが、科学技術振興機構によれば、このサミットでは、生殖細胞の遺伝子編集は重要な問題を多く含み、「リスク、潜在的利益、代替手段の適切な理解と均衡を図る」ことなしに実施すべきではないとの見解に至っている。

 このように、ゲノム編集に対する批判はよく分かる。安全性だけでなく、デザイナー・ベビーが普及すれば人類が将来的にどんなふうに変異していくのか、またどんな社会が待ち受けているのか、正直言って想像もできない。

 ちなみに今回の賀建奎・副教授が行った実験はさらに別の批判もある。副教授はゲノム編集で、HIVを持つ父親と、HIVに感染していない母親の生殖細胞をいじったが、そもそもHIVは、通常の人工授精において精子を洗浄することで分離除去できるようになっており、ゲノム編集がどうしても必要だったわけではない。今回の副教授のプロジェクトについては、詳細が全て公開されている。つまり、研究者として目立ちたかったなどというような、あらぬ動機が見え隠れしていると見る人たちもいる(既出の有名医師もその1人だ)。

 それでも、副教授がやってしまったというゲノム編集が、近々どこかで起きてもおかしくないということは、専門家たちはほぼみんな予測していた。研究者には底知れぬ科学的な探究心があるのも理解できるし、人間の好奇心として目の前にあるチャンスに手を出してしまうのも分からなくもない。倫理的にダメだと広く認識されていても、そこに手を出してはいけないという世界的な取り決めがあるわけでもないのだ(中国では指針で禁止だったようだが)。

photo 研究者たちはゲノム編集が起きることを予測していた(写真は記事と関係ありません)

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