とはいえ、もちろん優生学的なゲノム編集が許されるべきだとは思わない。だが誕生してから子供が苦しむのなら、その可能性は排除したほうがいいのではないか。また成人してからも、ゲノム編集で病気を予防、または治療できるなら、ぜひやるべきだとも思う。
その後、どんな変異が起きるか分からないと言う声もあるだろうが、そもそも今私たちが利用している医薬品だって予想外の事態が起きることもある。例えば、1929年にペニシリンが発見されてから、いろいろな抗生物質が開発されてきたが、それに伴って遺伝子の変異なども起き、抗生物質耐性を持つ病原菌が出現している。
そもそも人類の自然な進化は、医療分野などの発展によって、すでに「編集」されてきているのではないか。
ただ、ゲノム編集の乱用に対しては、明確な強制権を持った規制をかければいい。先日、文部科学省が不妊治療などの「基礎研究」に限り、人の受精卵にゲノム編集を施す研究を了承したと報じられたばかりだが、さらに広い視野で踏み込んだ議論が必要だろう。
世界的に大変な物議を醸している中国の研究者による今回の行為が、ゲノム編集の議論をあらためて世界規模で加速させる可能性がある。
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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