ゴーン事件を「西川の乱」だと感じてしまう、これだけの理由スピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2018年12月11日 08時53分 公開
[窪田順生ITmedia]

「自分を信じる」という心理

 このように、西川社長の「危機」に向き合うスタンスを分析していくと、世間からどう見られるか、ユーザーがどう感じるかということよりも、意識が「組織内」へ向いているようにしか思えない。

 ここではあまり詳しく述べないが、日産という企業はゴーンの「恐怖支配」の前は、経営陣や労組、製造現場の間でし烈な主導権争いが繰り広げられ、リーク合戦が行われていた歴史的経緯がある。

 そういう「内部の理論」が強い組織のプロパーである西川社長が、自身も「西川おろし」の憂き目にあった後、「ゴーンおろし」に動くのは、個人的には非常に納得感がある。

 しかも、購買部門を長く歩んできたというプロフィールの西川社長だが、実は1992年に社長に就任した辻義文氏の社長秘書、会長秘書を歴任したこともある。そういう意味では、日産経営陣が脈々と受け継いできた「クーデター体質」の正当な後継者と言えるのだ。

 これまで報道対策アドバイザーとして、危機に直面した企業や団体のトップと数えきれないほどお話をさせていただいてきて、身に染みて痛感をしていることがある。

 それは「危機」との向き合い方で、その経営者の人間性、信念、そして何に重きを置いているのかが残酷なまでに露骨に現れてしまうことだ。

 例えば、出世街道を順調に進んで、頭も切れて弁が立つような経営者は「危機」を、自身の力でねじ伏せようとする傾向が強い。つまり、不祥事や不正が起きても、頭を下げて非を認める前に、自分たちの正当性を声高に主張しがちなのだ。そのため、謝罪会見に登壇しても、マスコミを「論破」しようとして衝突。結果、「反省ゼロ」「言い訳に終始」みたいな形で「炎上」してしまうのである。

 そうならないように、筆者のような立場の人間が、直前にアドバイスや会見のトレーニングを重ねるわけだが正直、「変わることができない経営者」も少なくない。なぜかというと、「それまでそうやって成功してきた」からだ。

 人間は過去に引きずられる生き物だ。これまで大丈夫だったからこれからもうまくいく。こういう修羅場を何度も乗り越えてきたのだから、今回も乗り越えられる――。そのような「自分を信じる」という心理は成功者……すなわち組織のトップになるような人ほど強い。

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