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働き方改革の中で、私たちは何に向き合うべきか 経営学者・宇田川元一さん組織論、経営戦略論の研究家に聞く(1/5 ページ)

» 2018年12月13日 06時30分 公開
[西山武志WORK MILL]
WORK MILL
皆が快適に働ける環境を実現するために、企業はどのような組織づくりを目指していけばよいのだろうか? 経営学者の宇田川元一さんに聞いた 皆が快適に働ける環境を実現するために、企業はどのような組織づくりを目指していけばよいのだろうか? 経営学者の宇田川元一さんに聞いた

 働き方改革がさまざまな場所で叫ばれるようになった今、多くの企業では小手先の対策ではなく「組織自体の在り方の見直し」が問われています。

 これから私たちは、皆が気持ち良く伸びやかに働ける環境を実現するために、企業社会の中でどのような組織づくりを目指していけばよいのでしょうか。組織論、経営戦略論を研究する経営学者である宇田川元一さんにお話を伺いました。

 本稿では「なぜ今、企業は変革を求められているのか?」という問いを主題に、その背景にある時代と人々の変化や、働き方改革で解決されるべき課題の本質について、語っていただきました。

現在は「不信と民主化の時代」? デジタル革命がもたらした価値観の変化

WORK MILL: 宇田川先生は組織論の研究者として、古今東西のさまざまな組織づくりの事例に触れられてきたことと思います。

 昨今は働き方改革をはじめ、企業が“組織の変革”を求められる機運が高まってきました。これほどまでに組織の変革が叫ばれるようになった現在を、先生はどんな時代だと捉えられていますか。どのような社会の変化があって、私たちは変革の必要性を訴えるようになったのでしょうか。

宇田川: 大きな社会の変化の中で「今がどんな時代になったか?」という問いに答えるとするならば、今は「不信の時代」です。別の表現をするならば「民主化の時代」とも言えますね。

宇田川元一(うだがわ・もとかず) 埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。1977年東京都生まれ。長崎大学経済学部准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は経営戦略論、組織論。社会構成主義を思想基盤としたナラティヴ・アプローチの観点から、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行なっている 宇田川元一(うだがわ・もとかず) 埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。1977年東京都生まれ。長崎大学経済学部准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は経営戦略論、組織論。社会構成主義を思想基盤としたナラティヴ・アプローチの観点から、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行なっている

WORK MILL: 「不信」と「民主化」というのは、同じような意味合いなのですか?

宇田川: 同じようには聞こえませんよね。でも、根底でこの2つの言葉はつながっているんです。

 ここ数十年で社会に最も大きなインパクトを与えた出来事と言えば「デジタル革命」、情報技術の飛躍的な発達が挙げられます。インターネットが一般に普及してから、生活者は「欲しい」と思った情報に、簡単にアクセスできるようになりました。

 すると、私たちの行動はどう変わったか? 恐らく昔に比べて、医者の診断を心から信じられる人は減ったし、家電量販店で押しの強い店員に言われるがままにモノを買う人は、ほとんどいなくなったでしょう。

WORK MILL: それは、自分で情報を調べて検討できるようになったから?

宇田川: そうですね。インターネットの登場以前は、特定の分野についての詳しい情報を持っている人というのは、非常に限られた存在でした。一般に、売り手が買い手よりも知識と情報を持っている構造を、「情報の非対称性」と言います。

 インターネットの登場により、これまで見えにくかった情報の可視化が一気に進みました。そして同時に、「情報の非対称性」に守られていたさまざまな構造が、大きく揺らぎ始めます。

WORK MILL: ほかに比較できる情報がないから信用できていたものが、情報を得られるようになったことで、信用しきれなくなってきたと。

宇田川: その対象が、モノの買い方だったり、会社の在り方だったりするわけです。今まで疑う余地もなく絶対的に信じてきた物事については、相対化された瞬間から「本当は間違っているのではないか?」という考えが出てきます。ここで「相対化」と「不信」がつながってくるんです。

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