カルロス・ゴーンは現代の立花萬平か 日本が「人質司法」を止められない事情スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2019年01月15日 08時04分 公開
[窪田順生ITmedia]
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日本は自白に頼りすぎではないか

 では、翻ってこのようなカルチャーを継承した現代日本はどうか。

 2013年5月、スイス・ジュネーブで国連の拷問禁止委員会の審査会が開かれた。これは残酷で非人道的な刑罰を禁じる「拷問等禁止条約」が、きちんと守られているか調べる国際人権機関なのだが、その席上でアフリカのモーリシャスのドマー委員がこんな苦言を呈した。

 「日本は自白に頼りすぎではないか。これは中世の名残だ」

 江戸の自白文化を知っているのか、あまりに的を射た指摘に、会場には声を押し殺して笑う人々があふれた。だが、このリアクションに対して、日本の代表として参加した外務省の上田秀明・人権人道大使がブチキレた。

 「Don't Laugh! Why you are laughing? Shut up! Shut up!」(笑うな。なぜ笑っているんだ。シャラップ! シャラップ!)

 痛いところ突かれてカッーと頭に血が上るのは、江戸っ子っぽいが、国際人権機関でこれはマズい。会場はかなりシラけたムードになった。

 3年前から指摘されていた日本オリンピック委員会の竹田恆和会長の贈収賄疑惑をフランス当局が訴追手続きをしていることを「ゴーン逮捕の報復だ」と騒いでいる人がいるらしい。

 資金を払った不可解なルートをたどれば、なぜ東京地検特捜部が動かないのかが不思議なくらいの案件だが、「御用マスコミ」にゴーンがいかに悪人かというリーク情報を食わせることに忙しい特捜部は、ハナから竹田会長に嫌疑の目すら向けていない。

 外国人は海外からいくら叩かれても自白を迫れるが、旧皇族を取り調べるなど畏れ多いということか。

 江戸の「自白文化」は今も脈々と守られているが、大家越前や与力たちにあった「罪と向き合う真摯さ」は完全に失われてしまっているようだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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