不正の手口自体は、実はシンプルである。
(1)常用労働者数500人以上の事業所について悉皆調査(全数調査)をすべきだったところを、04年から東京都だけ一部を調査するよう変更した。
(2)一部だけ調査した数字の合計は全体の数字の合計よりも小さくなるので、通常は調査した割合の逆数を掛けて、復元・膨らましをするが、それを行わなかった。
(3)そのような違反行為を15年にわたって行い続けた。
少しテクニカルであるが、全体の3分の1しか調査しなかった場合は、調査結果(の平均値)を3倍することで、全体を調査したようにみなすという手法がある。抽出率の逆数を掛けて、全体の大きさを復元する。元々の大きさに膨らませるようなイメージである。統計学では母集団推計と呼ばれており、サンプル調査を基に、全体を推計する際の基礎的・一般的な手法である。
もっとも、毎月勤労統計は常用労働者数500人以上の事業所については、サンプル調査ではなく全数調査することになっていた。そのため、仮に復元、膨らましてもルールに反しているのだが、調査先を意図的に減らした影響を補正することもしなかったので、推計が過少になっていた。
調査をごまかし、それを取り繕うための復元もしなかったのに、18年1月になって、突然、推計方法を変更して復元した。過去のデータは復元しなかったので、賃金の上昇率が高くなった。
政府統計委員会の委員長を務める西村清彦氏(元日本銀行副総裁)の指摘もあり、不正は開始から15年経った18年12月になって発覚した。極めて悪質で、これまでの政府統計の不祥事の中では最大級の事件だ。
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