今から30年ほど前の1988年、「アグネス論争」なるものが勃発し、流行語大賞を受賞しました。
これは歌手でタレントのアグネス・チャンさんが、赤ちゃんを連れてテレビ番組の収録にやってきたことをきっかけに起きた大論争で、当時各界で活躍していた女性たちの「批判」が火に油を注ぎ、すさまじい勢いで炎が燃え広がりました。
ブルースの女王で、日本人女性ではじめて「つけまつげ」を付けた淡谷のり子さんは、「芸人は夢を売る商売なのに、楽屋に子どもを連れて来たりすると芸が所帯じみてよくない」とコメント。
コラムニストの中野翠さんは、「アグネス・チャンがテレビ局の楽屋に赤ん坊を連れてきて育児をしているという記事を読んだとき、ハッキリいって、私は『喫茶店に子どもを連れてくる母親とたいして変わらない』と思った」と、“喫茶店=大人の場所”という言い回しで、その迷惑さを訴えました。
どちらのコメントも「昭和の匂い」がプンプン漂います。しかしながら、これは序の口。「女vs女」の辛辣(しんらつ)さを痛感させたのが、大河ドラマ「西郷どん」の原作者、林真理子さんです。
林さんは『週刊文春』の「今日も思い出し笑い」というコラムで、「彼女の言っていることは確かに正論ですが、非常にラクチンで責任のない正論です。口の悪い友人に言わせると、まさに『女子どもの正論』だそうです。こういう正論に対して、人はなすすべがありません。反論しようものなら、平和が嫌いで、子どもを大切にしない人で、国際交流に無頓着な人間というレッテルを貼られてしまうからです」と、人格否定のニュアンスを含めた批判を展開。
アグネス・チャンさんも負けてはいませんでした。『中央公論』に「アグネスバッシングなんかに負けない」を書き、自らの「正論」と「和平」を訴えました。
そこで林真理子さんは『文藝春秋』誌上に「いい加減にしてよ、アグネス!」を展開。「この種の人間に、おそらく何を言っても通じるはずはないのだ。アグネス・チャンという人は、善意と愛を信じるやさしい女性なのであろう。世界中の人々はみんないい人たちばかりで、みんながコミュニケーションをきちんと持ちさえすれば、必ず平和はやってくるといろんなところで言っておられる。それはまさに新興宗教と同じだ」
……さて、いかがでしょう?
今回、30年前の日本社会の“ゆるさ”と時代の変化を痛感させられる「アグネス論争」を振り返っているのは、この事件がきっかけで「子連れ出勤」という言葉が生まれたからにほかなりません。
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